量子収率 量子収率

発光量子収率測定 | 発光材料評価

発光量子収率測定とは

発光量子収率とは、発光材料が吸収した励起光フォトン数に対して放出される発光フォトン数の割合のことです。

発光デバイスの開発現場では、デバイスの消費電力を低減するために、発光効率の高い材料の開発が求められています。例えば有機ELディスプレイの開発では、その材料評価に発光量子収率測定が用いられており、開発には正確に発光量子収率を算出する必要があります。

発光量子収率の測定手法、測定原理

相対法と絶対法

発光量子収率の測定法は、大きく分けて「相対法」と「絶対法」があります。

相対法は発光量子収率の値がわかっている標準溶液と値がわかっていないサンプル溶液の発光スペクトルを同一条件で測定し、その強度を比較することでサンプル溶液の発光量子収率を相対的に求める方法です。相対法のメリットとして、装置の分光感度補正、溶媒の屈折率補正以外は複雑な補正を要しないという点がありますが、薄膜、粉末などの固体サンプルが測定できないというデメリットがあります。

一方,絶対法は発光量子収率の値がわかっている標準サンプルを用いずに発光量子収率の絶対値を求める方法です。絶対法の主な手法としては積分球を使用した測定手法 「積分球法」があります。積分球法では溶液のほか、薄膜、粉末などの固体サンプルを測定できるというメリットがあります。

浜松ホトニクスでは、積分球法を用いたワンボックスタイプの発光量子収率測定装置をラインアップしています。

測定手法 標準溶液の必要性 測定可能な対象物
相対法 必要 溶液
絶対法 (積分球法) 不要 溶液、固体 (薄膜、粉末等)

積分球とは

積分球とは、中空の球体であり、内壁に高い反射率で拡散性に優れた材料が使用された光学コンポーネントです。通常、発光材料や発光デバイスは特有の配光特性を有しているため、測定する場所によってその明るさが異なります。一方、積分球に入射された光と積分球内部でサンプルから発生した光は、積分球の内壁に照射され拡散反射を繰り返します。結果として積分球内の光はどの方向から測定してもほぼ均一な光になります。この均一な光は、発光材料や発光デバイスから放射される全光量に比例します。このように、積分球法では発光材料の配光特性の影響を受けることなく発光量子収率を正確に測定することが可能になります。

積分球とは

図1:発光材料から放射される光のイメージ

 

測定原理

図2は積分球を用いた絶対発光量子収率測定装置の構成例です。装置は一般的に励起光源、積分球、分光器、データ解析装置から構成されています。測定するサンプルは積分球内のサンプルホルダに設置します。励起光源から出力された励起光は、ライトガイドにより積分球に導入され、積分球内のサンプルに照射されます。励起光およびサンプルからの発光は積分球内で拡散反射され均一な明るさになります。この光の一部をファイバプローブを介して分光器で測定します。

図3は発光量子収率の測定原理を示した図です。量子収率を測定する際は、リファレンスからサンプルの順にそれぞれの励起光スペクトル、発光スペクトルを測定します。リファレンスを測定する際はサンプルを含まない状態で測定を行います。図3においてサンプルのスペクトルを見ると、リファレンスのスペクトルに比べ励起光の強度が減少しているのに対し、長波長側に発光が観測されています。これは、サンプルが励起光の一部を吸収し、発光したことを示しています。このリファレンスとサンプルにおける励起光積分強度の差分と、サンプルにおける長波長側の発光の積分強度を用いて量子収率を算出することができます。

絶対発光量子収率測定装置の構成例

図2:積分球を用いた絶対発光量子収率測定装置の構成例

発光量子収率の測定原理

図3:発光量子収率の測定原理

発光量子収率の測定事例

高発光効率を有する熱活性化遅延蛍光材料の量子収率測定

熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence:TADF)材料は、第3世代有機EL材料として大きな関心が寄せられています。励起一重項(S1)状態と励起三重項(T1)状態のエネルギー差、ΔESTを最小にするような精密な分子設計により、T1 → S1 の逆項間交差を起こりやすくし、高効率なTADF材料を開発することに成功しました。 上図の4CzIPNの発光量子収率は、絶対PL量子収率測定装置により、94±2 %と求められました。

TADF材料の発光量子収率測定

データ提供:九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター 安達 千波矢 様、中野谷 一 様

H. Uoyama, K. Goushi, K,Ahizu, H.Nomura, and C. Adachi, Nature492, 234 (2012).

アントラセン溶液の蛍光スペクトルと蛍光量子収率

従来の相対量子収率測定法における発光標準として広く使われている代表的な標準溶液の蛍光量子収率を再評価したところ、ほとんどの標準溶液の量子収率測定値が文献値とよく一致しました。これにより、発光量子収率測定における絶対法の高い信頼性が証明されました。

アントラセン溶液の蛍光スペクトルと蛍光量子収率

データ提供:群馬大学大学院工学研究科 応用化学・生物化学専攻 飛田 成史 様、吉原 利忠 様、北里大学 理学部化学科 石田 斉 様との共同研究

K. Suzuki, A. Kobayashi, S. Kaneko, T. Yoshihara, H. Ishida, Y. Shiina, S. Oishi, and S. Tobita, Phys. Chem. Chem. Phys., 11, 9850 (2009)

 

p-ターフェニルとアントラセン単結晶の蛍光量子収率とすりつぶし効果

代表的な有機物質であるpターフェニルとアントラセンの高純度単結晶の蛍光量子収率をそれぞれ測定しました。

p-ターフェニルでは、高純度単結晶の蛍光量子収率として0.67が得られ、単結晶をすりづぶすことで蛍光量子収率0.80に増加しました(図A)。p-ターフェニルでは、蛍光量子収率の増加と共に蛍光スペクトルの短波長側に構造が現れることから、蛍光量子収率の増加は粉末の微細化に伴う再吸収の抑制によるものと考えられます。

アントラセンに関しては、高純度単結晶では高い蛍光量子収率(0.67)を示しますが、単結晶のすりづぶしにより蛍光量子収率が0.27へと減少しました(図B)。また、このすりつぶしにより蛍光スペクトルの短波長側の発光成分に加え、長波長側に新たな発光成分が現れることがわかりました。この長波長側の発光成分は、アントラセン二量体の蛍光スペクトルと類似していることからダイマー型状態からの発光であると帰属されました。このことから、アントラセン単結晶の蛍光量子収率の減少は、すりつぶしによって導入された二量体が構造的欠陥となり消光中心として作用したことが原因と考えられます。

p-ターフェニル単結晶の蛍光スペクトル

アントラセン単結晶の蛍光スペクトル

データ提供:産業技術総合研究所 計測フロンティア研究部門 加藤隆二 様、古部昭広 様 / 学習院大学 小谷正博 様 / 筑波大学 名誉教授 徳丸克己 様 との共同研究

R. Katoh, K. Suzuki, A. Furube, M. Kotani, and K. Tokumaru, J. Phys. Chem. C, 113, 2961 (2009).

-196 ℃(77 K)におけるベンゾフェノンのりん光量子収率

ベンゾフェノンの有機溶媒中におけるりん光量子収率を常温(+22 ℃ (295 K))と低温(-196 ℃(77 K))で測定し、両者の比較を行いました。ベンゾフェノンは基底状態から励起一重項状態への光励起後、高い収率(ΦISC ~ 1.0)で励起三重項状態を生成することが知られています。

一般的な有機化合物では、りん光は禁制遷移のために常温での観測が困難とされていますが、ベンゾフェノンでは弱いながらもりん光スペクトルが観測されました。(Φp ~ 0.01)。一方、極低温では常温に比べ、りん光強度が大幅に増加し、高いりん光量子収率(Φp > 0.8)を示すことが分かりました。

-196 ℃ (77 K) におけるベンゾフェノンのりん光量子収率

データ提供:群馬大学大学院工学系研究科 応用科学・生物科学専攻 飛田成史 様、吉原利忠 様との共同研究

A. Kobayashi, K. Suzuki, T. Yoshihara, and S. Tobita, Chem. Lett., 39, 282 (2010).

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