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Analog SNR simulator




Signal-to-Noise Ratio (SNR) とは、ノイズに対する信号の識別可能性を説明し、計測そのものの質を表す有用な指標です。原理的に、入力信号が計測可能である為にはSNRが1よりも大きい値である必要があります。

シミュレータの使い方:
1. 検出器タイプを選び、最大5つ(Detector A~E)の検出器を同時に比較する事ができます。
2. 検出器の性能を入力する、またはドロップダウンリストから登録済みの検出器より選んで下さい。
3. 入射光量条件 \(photons \over second \) または 入射光強度条件 \(photons \over sec*sq. millimeter \)、蓄積時間の共通パラメータ(グローバルパラメータ)を設定して下さい。
4. もし登録済みの検出器を選んでいる場合、波長を変えることで自動的にその放射感度で計算されます。注意点として、登録済みの検出器のパラメータから1つでも変更がある場合、この波長感度計算機能は無効となります。




このシミュレーション結果はセンサ選びの参考情報としての活用までに留めて下さい。このシミュレーションで得られた結果がそのセンサの性能を保証するものではありません。

測定条件:



アンプ条件:

共通パラメータ設定:




Detector A


Detector B


Detector C


Detector D


Detector E




SNRの計算手法:

SNR式

このシミュレータは次の一般式からSNRを算出します: $$ SNR = { I_S \over { \sqrt{ 2 q (I_{S} + I_{D}) \mu F \Delta f + {{4 k_B T \Delta f} \over R_f} + [e_n \sqrt{\Delta f} ({1 \over R_f} + 2 \pi \Delta f C_t)]^2 + [i_n \sqrt{\Delta f}]^2 } } } $$ 電流信号は陰極の光電子を検出器に固有のゲイン \( \mu \) によって増倍したものです。ゲイン \( \mu \) の項はフォトダイオードや光電管のような増倍部を持たない検出器では省略されます。 $$ I_S = I_k \mu $$ \( I_k \) は陰極での光電流を表し、光子の到着頻度 \( \Phi_p \) に量子効率 \(\eta\) と電気素量 \( q\)を掛けることで計算されます。 $$ I_k = \Phi_p \eta q $$ さらにPMTでの電流信号には収集効率 \( \alpha \) が付随します。収集効率は光電面で生成された電子がダイノードによる増倍を経由してアノードまでたどり着く確率を表します。 $$ I_S = I_k \mu \alpha $$ MPPCの感度は光子検出効率PDEで表され、量子効率、開口率 \( F_g \)、アバランシェ確率 \( P_g\)の積で与えられます。開口率はマイクロセル間の溝を含めた1マイクロセルサイズあたりの有効マイクロセルサイズの割合を表します。また、アバランシェ確率は光子が入射したマイクロセル数に対する励起マイクロセル数の割合です。 $$ PDE = \eta F_g P_g $$ これよりMPPCにおけるアノード電流は次式で与えられます。 $$ I_S = \Phi_p \eta F_g P_g q \mu $$

ノイズ

光計測において検出器には信号のショットノイズとダークのショットノイズを合わせたノイズが生じます。 $$ \sigma_{det}^2 = {2q(I_S + I_D)\mu F \Delta f} $$ \(F\) Fは検出器の過剰雑音係数と呼ばれる指標を表し、増倍時の揺らぎによるノイズの増分割合を示す指標として用いられます。フォトダイオードのような増倍機能を持たない検出器では \(F\) を1とします。
\( \Delta f\) は回路が持つ周波数帯域幅です。
\( I_D \) はアノード出力の暗電流(ダークカレント)です。

PMTにおける過剰雑音係数:

PMTの増倍による過剰雑音係数は、各ダイノードでの増倍がポアソン過程によるものと仮定したとき、より光電面に近い前段側の影響程強く現れます。全ダイノードの二次電子放出比が等しいと仮定すると第1ダイノードの二次電子放出率を \(\delta_{dy1}=M^{1 \over {dynodes}}\) で表すことができ、これを用いて過剰雑音係数を見積もることができます。 $$ F_{pmt} ={ \delta_{dy1} \over {\delta_{dy1} - 1}} $$

APDにおける過剰雑音係数:

APDにおける増倍率の確率関数はMcIntyre [1]によって \(m\) を増倍後の電子数、 \(n\) を初期の電子数、平均ゲイン \( \mu \) とイオン化率 \(k\) を用いた次式で与えられました。 $$ p(m | n) = {{n \Gamma({m \over {1-k}}+1)} \over m(m-n)! \Gamma({{km \over {1-k}}+n+1})} \left[{{1+k(\mu-1)}\over \mu}\right]^{n+km/(1-k)} {\left[{{(1-k)(\mu-1)}\over \mu}\right]^{m-n}} $$ 上式を近似した簡単な式がWebbら[2]により与えられました。しかし、この近似式は総和が1にならず、出力される電子数が \(m \lt 10 \) の時には厳密な確率関数から外れるふるまいをすることが知られており注意が必要です。これらを踏まえたうえでこの近似式は非常に有用です。 $$ p(m|n) = { {1 \over { \sqrt{2 \pi n \mu^2 F} (1+ {{m-\mu n}\over{n \mu F/(F-1)}})^{3/2} }} \exp{\left[ -{(m-\mu n)^2} \over {2 n M^2 F (1+{{m-\mu n} \over n \mu F/(F-1)})} \right]} } $$ ここで過剰雑音係数は \(F=kG+(2-{1\over G})(1-k) \) の様にイオン化率とゲインの関数として定義されます。広いゲイン設定で実測値の \(F\) は非常に単純化した形をとることができ、この経験的な近似式を以下に示します。 ここで \(x\) はメーカーが示す測定して得られた雑音指数です。 $$ F_{apd} = \mu ^x $$

SiPM (MPPC)における過剰雑音係数:

SiPMの主な過剰雑音要因はアバランシェ増幅中に放出された二次光子が別のマイクロセルへ移動することで引き起こされた二次アバランシェ増幅の結果による光学クロストークです。Vinogradov [3]は初めの1個のマイクロセルの励起を起点としてN個のマイクロセルで励起する確率がBorel分布に従うことを示しました。SiPMのパラメータを用いてBorel分布は次のように表されます。 $$ P_{\mu}(N)= {{\exp(-\mu N)(\mu N)^{N-1}} \over N!} $$ ここで \(\mu=-ln(1-P_{ct})\) であり、Borel分布乱数の期待値は \(1 \over {1- \mu}\) と表されます。したがってSiPMの過剰雑音係数はクロストーク確率 \(P_{ct}\) の関数として次のように近似されます。 $$ F_{sipm} = {1 \over {1+ln(1-P_{ct})}} $$

外部ノイズ

読み出し回路由来の外部ノイズは主に3つの成分で構成されます。ジョンソンノイズはトランスインピーダンスアンプの帰還抵抗 \( R_f \) によって生じる熱雑音です。 \( k_B \) はボルツマン定数 \(1.38*10^{-23}\) J/K. \( T \) は絶対温度です。 $$ {\sigma_J}^2 = {{4 k_B T \Delta f} \over R_f}$$ 入力換算帯域電圧ノイズはアンプの電圧ノイズです。 \( e_n \) は入力帯域ノイズ電圧密度です。 読み出し回路は入力電圧ノイズを \( 1 + {R_f \over Z_{C_{in}}}\) 倍する非反転増幅回路を形成します。ここで \( Z_{C_{in}} = {1 \over 2 \pi \Delta f C_{in}}\) は端子間容量 \(C_t\) とオペアンプの入力容量 \(C_{oa}\) を並列接続した際のインピーダンスです。 $$ {\sigma_{v_n}}^2 = \left[e_n \sqrt{\Delta f} ({1 \over R_f} + 2 \pi \Delta f C_{in}) \right]^2 $$ 入力換算電流ノイズはオペアンプ内で生じた電流によるノイズです。 \(i_n\) は入力換算ノイズ電流密度です。 $$ {\sigma_{i_n}}^2 = \left[i_n \sqrt{\Delta f} \right]^2 $$ オプションとして、シミュレータは低周波ノイズを計算に含めることができます。これは2つのノイズ項を加えることで導入されます。 \( e_{n_{1Hz}} \) は1Hzでの入力換算電圧ノイズ密度、 \( i_{n_{1Hz}} \) は1Hzでの入力換算電流ノイズ密度、 \( f_{Hi} \) は高域カットオフ周波数、 \( f_{Lo} \) は低域カットオフ周波数です。 $$ {\sigma_{n_{1Hz}}}^2 = \left[e_{n_{1Hz}} \sqrt{LN \left( {f_{Hi} \over f_{Lo}} \right)} ({1\over R_f} + 2 \pi \Delta f C_{in}) \right]^2 $$ $$ {\sigma_{n_{1Hz}}}^2 = \left[ i_{n_{1Hz}} \sqrt{LN \left( {f_{Hi} \over f_{Lo}} \right)} \right] ^2 $$ References
[1] R. J. McIntyre, "The Distribution of Gains in Uniformly Multiplying Avalanche Photodiodes: Theory," IEEE Transactions on Electron Devices, vol. ED-19, pp.703-713, June 1972.
[2] P. P. Webb, R. J. McIntyre, and J. Conradi, "Properties of Avalanche," RCA Review, vol. 35, pp. 234-278, June 1974.
[3] S. Vinogradov, "Analytical Models of Probability Distribution and Excess Noise Factor of Solid State Photomultipier Signals with Crosstalk," Nuclear Inst. and Methods in Physics Research, A, Volume 695, p. 247-251, Dec. 2012.