当社は光子計数型画像計測装置PIASを用いて、フォトンカウンティング領域においてヤングの干渉実験を実施し、光子を一つ一つ検出して画像化し、その積算結果として干渉縞が現れることを実験で確認しました。この結果は、一つの光子がダブルスリットの両方を同時に通り(波としての干渉性)、検出器において1個の輝点を作り(粒子としての光電効果)、これらを積算した結果として干渉縞を形成するという光子の二重性(光は波あり、粒でもある)を端的に示しました。この実験に使用した撮像システムPIASは1984年度の日刊工業選定の「1984年10大新製品賞」を受賞したほか、アメリカのR&D誌による「R&D Award」にも選定され、当社の微弱光計測技術が国内外で高く評価されたことの証左となりました。
動画:単一フォトンによるヤングの干渉実験
1948年の「東海電子研究所」設立、1953年の「浜松テレビ株式会社」創立から始まり、1983年の「浜松ホトニクス株式会社」への社名変更を経て、今日まで光技術を追求し続けている浜松ホトニクス。創立以来、光と共に歩んできた当社の歴史をご覧ください。
堀内平八郎 東海電子研究所を設立
戦後の廃墟の中、光電への夢を胸に船出
小学校の時から光の不思議さに魅了され、世界におけるテレビ技術研究の先駆者であった高柳健次郎の門下生として浜松高等工業学校電気科で学んだ堀内平八郎(初代社長)は、高柳からの指導や薫陶を受け、高柳イズムに大いに感化されました。第2次世界大戦中は東京、そして工場の疎開先である山形において暗視管の開発・製造に取り組んだが、終戦を迎えて再出発を余儀なくされました。戦後の混乱期に浜松へと戻り、戦前・戦中を通して培った光電の技術を生かそうと決意。昭和23年(1948年)、浜松市海老塚町456番地に工場用地を得、「東海電子研究所」を設立しました。
写真:堀内平八郎、弘子夫妻と愛犬マック
街路灯自動点滅器に採用された光電管PV26
浜松テレビ株式会社設立
光技術と産業を結び付けることを理念として設立
堀内は光を有効に活用する手段(製品)を社会に提供すること、「光の大道」に進むことを決意し光電変換素子の開発に邁進しました。昭和26年(1951年)の初頭に堀内が最初に手がけた光電管(後のPV29、PV26)が有望な引き合いを獲得し、成功の兆しを見せ始めました。東海電子研究所を発展的に解消しようと考えていた堀内は、実兄の高橋祐二(浜松高等工業学校教授)を通じて交流のあった晝馬輝夫、羽生紀夫に呼びかけて新会社設立に動き、「浜松テレビ」が誕生しました。社名の由来は、堀内が師と仰ぐ高柳健次郎氏の精神と技術を受け継ぎ、光技術と産業を結び付けることを設立理念と事業目的としたため、高柳にちなんだ社名を考えることになり、当時すでに、「高柳」=「テレビ」という代名詞的な関係があったため、「浜松テレビ」と名付けられました。尚、この社名は、テレビ局と間違えて新人タレントが挨拶に来たり、家庭用テレビの修理を依頼されるなどの後日談を生むことになりました。
写真:当時の海老塚工場
模写電送用光電管G5Eの製造開始
当社初のテレビカメラ製品『水中カメラ』を開発
科学・産業分野への応用スタート
当社におけるテレビジョンの科学分野、産業分野への応用は、三重大学の川本信之教授から依頼された、魚礁観察用水中カメラの制作から始まりました。テレビカメラの制作は当社にとって初めての試みであり、予備実験は成功し、新聞でも取り上げられたものの、実験船に積み込んでの本番実験は残念ながら成功に至りませんでした。しかし、テレビカメラの制作は当社にとって初めての試みであり、最初のフィールド実験として大きな意義を持つものでありました。
写真:水中カメラの組み立て・調整作業
セレン光電面ビジコン発売
初めての半導体製品CdSセルの開発
初めての大量生産スタート
CdSセルは、それまで光電管などの電子管製品を扱っていた当社が初めて手がけた半導体製品です。何度も試行錯誤を繰り返し、悪戦苦闘のすえ、製品化に成功しました。昭和33年(1958年)の暮れのある日、テレビのブラウン管の輝度調整用として、月1000個単位での注文が舞い込みました。これまで多品種少量生産を行っていた当社にとって、初めて体験する大量生産であり、従業員を総動員して生産にあたりました。CdSセルの開発は、半導体技術の蓄積や、全社一丸となって昼夜生産にあたることで社内の結束が高まるなど、さまざまな成果をもたらしました。
写真:CdSセルの第1号製品 P101
現在にも続く主力製品
光電子増倍管の開発に成功
光電子増倍管は光検出器の中で特に際立った高感度と高速応答など優れた特性をもっています。昭和30年(1955年)初頭になると、光電子増倍管を使用した化学分析機器が作られるようになり、国内での需要も増えてきましたが、主に輸入品が使用されていました。そのような折り、ある取引先から言われた「光電子増倍管を作ったら浜松テレビ様と呼んでやるよ」との言葉が開発の必要性を痛感していた技術者を奮起させ、光電子増倍管の開発に着手しました。さまざまな困難を克服して開発された光電子増倍管は、他社を凌駕する性能を持っており、この製品によって、当社は光技術企業として基盤を固めることになりました。
写真:最初のサイドオン型光電子増倍管 931A
赤外線用テレビカメラ発売
ホローカソードランプ、重水素ランプ試作開始
ロケット自動追尾装置(X-Yトラッカー)の開発に成功
宇宙開発事業への参画始まる
東京大学の植村恒義教授より依頼を受けたロケット自動追尾装置(X-Yトラッカー)は開発に2年を費やし、苦難の末に試作に成功しました。このX-Yトラッカーは、発射直後のロケットを完璧に追尾することに成功し、アメリカから訪れた見学者に「内之浦の実験場の中でこのX-Yトラッカーは最も進んだ装置だ」と言われる程高い評価を受けました。その当時、NASAですらロケットの軌道追尾は連続写真フィルムを使用しており、X-Yトラッカーはまさに画期的な装置だったのです。このX-Yトラッカーをきっかけに、オーロラ観測用カメラ、ハレー彗星探査機「すいせい」用カメラなど、宇宙開発プロジェクトに参画していくことになります。
写真:ロケット自動追尾装置(X-Yトラッカー)
メディカル分野への進出
テレビカメラを用いた瞳孔面積計測装置の開発
東京大学医学部眼科の石川哲講師より、自律神経機能と密接に関連した瞳孔反応(瞳孔の面積変化)を正確に計測できれば、世界初の画期的な装置になるということで、開発の依頼を受けました。このイリスコーダの開発は、従来のように製品の精度の向上のみに全力を傾注するだけでなく、カメラの性能、医師の使い勝手や被験者への心理的配慮など、医療機器製作という当社にとって未知の分野への挑戦でした。また、この装置を使って、トンネル進入時/通過時の瞳孔反応(暗順応、明順応)についての調査も行われ、この実験結果が現在の高速道路のトンネル照明に生かされています。
写真:イリスコーダによる瞳孔検査
電子管の開発、製造で蓄積したノウハウをもとに
シリコンフォトダイオードの開発
当時CdSセルを納入していたカメラメーカーより、CdSセルよりも測定精度、応答特性共に優れた半導体素子として、カメラ用シリコンフォトダイオードの開発を要請されました。当時より、シリコンフォトダイオードはカメラの露出計や計測機器用のセンサとして有望視されていました。この分野において当社は後発でしたが、電子管の開発、製造で蓄積したさまざまなノウハウや販路が役立ち、その後の固体事業部の主力製品へと成長しました。
写真:シリコンフォトダイオード
ストリークカメラシステム発売
コンピュータとの接続で新境地を拓く
コンピュータ用ビジコンカメラの開発
1971年マイクロコンピュータが発売され、急速に普及していきました。当社はいち早くコンピュータ用テレビカメラという新境地を切り開きました。 C1000(コンピュータ用ビジコンカメラ)は、従来のカメラが監視用など単に「見る」ことを目的に設計されているのに対し、画像処理や計測を目的とした基本性能・機能を備えた高精度カメラです。コンピュータにより、複雑な画像処理も可能となり、各分野で応用が広がりました。このコンピュータとテレビカメラの組み合わせは、現在のシステム製品に受け継がれています。
写真:コンピュータ用ビジコンカメラ C1000
打ち上げられた宇宙の目
宇宙からのオーロラ撮像に世界で初めて成功
「人工衛星にテレビカメラを搭載してオーロラの観測を行いたい」と、地球物理学の権威である等松隆夫・東京大学理学部地球物理学教室教授より人工衛星搭載用テレビカメラの開発要請を受けました。限られた時間の中、真空紫外用撮像蓄積管および人工衛星打ち上げ時の振動や衝撃への耐久性、かつ真空で幅広い温度範囲、放射線被暴射等の過酷な条件下で1年間、正常動作するテレビカメラという極めて厳しい条件の開発を遂行。1978年、内之浦海岸から科学衛星「EXOS-A」(後に「きょっこう(極光)」と命名される)が打ち上げられ、20日後、地球214周目に撮像された20枚のうち8枚に見事、オーロラの姿をとらえました。世界初の宇宙からのオーロラ撮像に成功し、当社の名前が宇宙開発の分野において世界的に知られ始めることになりました。
写真:人工衛星搭載用テレビカメラ
光技術の総合力をPRした
プライベート展示会 第1回『フォトンフェア』開催
大阪営業所の開設を記念し、1979年に開催した「浜松テレビ㈱大阪総合展」の成功に手ごたえを感じ、翌年の1980年に大阪・東京で第1回フォトンフェアを開催しました。総合展の名称は、より多くの人に親しみを持って受け入れられるよう当社のキャッチフレーズである「Photon is our business」から「Photon」を採用し、「フォトンフェア」と名付けられました。単なる製品の展示だけでなく、新技術の紹介や技術相談、講演会などにも力をいれ、企業としての姿勢を強くPRする展示会でした。人的交流と情報交換の場としても有効に機能するフォトンフェアは、現在でも定期的に開催をしています。
写真:第1回フォトンフェアの会場入り口
時代の変化に伴う柔軟な企業活動を行うために
事業部制導入を決定
それまで当社は、製造部において部門を一つの基本単位として統括していましたが、企業規模の拡大、製品の多様化が進んでいく中で、時代の変化に的確に対応し、柔軟な企業活動を行うために事業部制の導入を行いました。このとき分割された電子管・固体・システムの3事業部は、それぞれほぼ地域ごとにまとまっていたため、その事業所が現在にも続く各事業部の本拠地となりました。
写真:当時の各事業部本拠地
極微弱光計測、シングルフォトン検出への挑戦
単一フォトンによるヤングの干渉実験に成功
光子・粒子計数型画像計測装置PIAS発売
キセノンランプ発売
皇太子殿下(現・上皇陛下)豊岡製作所に行啓
マイクロフォーカスX線源発売
東京証券取引所市場第一部上場
半導体レーザによるイネの人工室内栽培に世界で初めて成功
エピソードを読む太陽光の代わりに高出力の半導体レーザを用いることで、イネの人工室内栽培に世界で初めて成功しました。実験には当社がレーザ核融合研究用に開発した技術を応用した、イネの葉緑体が最も活発に光合成を行う680 nmの半導体レーザが用いられました。「植物工場」での従来の栽培方法と比べ大幅な電力コストの削減や、栽培期間の短縮も可能となり、将来の世界的な食糧不足解消の可能性を示しました。
写真:植物工場
光電子増倍管が設置されたカミオカンデでの研究により
小柴昌俊東京大学名誉教授がノーベル物理学賞受賞
写真:カミオカンデ内部
光技術を使って新しい産業創成を目指す
「光産業創成大学院大学」を開学
21世紀に入り、世界の産業界、経済界においてグローバル化が顕著となり、外国からの学術・技術導入をてこに、それを応用発展させる事で経済大国の基盤を築いた日本にとって、私たち自身が新たな産業、ひいては新たな文化を創造し、世界に向かって発信していかなければならない事態に直面しています。光産業創成大学院大学は、テーマを光に絞り、その無限の可能性を糧として新たな産業を起こすことができる人材を養成すること、つまり起業そのものを教育の第一目標として、浜松ホトニクスが中心となり設立されました。
写真:光産業創成大学院大学
バーチャルスライドスキャナNanoZoomer発売
「浜松を光の尖端都市に~浜松光宣言2013」を地元3大学と調印
エピソードを読む写真:「浜松光宣言2013」宣言書
SSD、APD、PMTがヒッグス粒子の検出に貢献
フランソワ・アングレール名誉教授、ピーター・ヒッグス名誉教授がノーベル物理学賞受賞
写真:大型ハドロン衝突型加速器内に設置されたSSD(写真提供:CERN)
ニュートリノの観測に貢献した「20インチ光電子増倍管」がIEEEマイルストーンに認定
エピソードを読む神岡陽子崩壊実験「カミオカンデ」用の20インチ光電子増倍管が素粒子ニュートリノの観測に貢献したことを評価され、IEEEマイルストーンに認定されました。世界最大の電気・電子・情報・通信分野の学会であるIEEE(アイ・トリプル・イー)が認定するIEEEマイルストーンとは、開発から25年以上が経ち、社会や産業の発展に貢献したと認定される歴史的業績を表彰する制度です。IEEEマイルストーン認定により授与された銘板は、当社豊岡製作所に設置され、碑の岩盤は現在も最先端の素粒子物理学実験が進められている神岡鉱山の飛騨片麻岩を使用しました。この銘板碑は神岡鉱山の方角に向けて設置されており、次なる成果、新たなる発見を見守っています。
写真:IEEEマイルストーン贈呈記念式典
光電子増倍管が設置されたスーパーカミオカンデでの研究により
梶田隆章東京大学教授がノーベル物理学賞受賞
写真:20インチ光電子増倍管
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