法医学を「デジタル」で変える

公開日:2025年3月12日

進む高齢化や孤独死の増加など、死因究明を必要とする症例は年々増加する一方で、日本の法医解剖医は全国で約150人と限られた人数で質の高い対応を求められている過酷な現状があります。この過酷な現状に法医学教室の「孤立」化が拍車をかけていると千葉大学大学院法医学教室 岩瀬教授は指摘しています。

岩瀬教授の指摘する孤立化とは。また孤立を解消するための組織検査のデジタル化とは一体何か。孤立を解消することで描く法医学の未来とは。

第一人者である岩瀬博太郎 先生に語っていただきました。

 

※掲載内容は2020年1月時点のものです。

 

千葉大学 岩瀬博太郎様

岩瀬 博太郎
千葉大学大学院法医学教室 教授
千葉大学付属法医学教育研究センター センター長

1967年千葉県生まれ。千葉大学大学院法医学教室教授、解剖医。東京大学医学部卒業。同大法医学教室を経て、2003年より、千葉大学大学院法医学教室の教授となる。2014年からは千葉大学付属法医学教育研究センター初代センター長および東京大学大学院法医学教室の教授も兼務し、同センターとの連携を図る。年間400体の解剖を行う。

組織検査までやらなければ本当の死因はわからない

「解剖やCT検査だけで死因を断定することはできません。組織検査を含めた様々な検査までやらなければ本当の死因はわからないのです。」と岩瀬先生は語ります。

「実際にCTと解剖を行って、下腿部の筋肉に出血があることはわかっていたものの、それだけでは死因がはっきりせず、さらに組織検査を行うと腎臓にミオグロビン円柱が多く認められることが判明したことがあります。この事例は、下腿部の筋挫滅部から漏れ出たミオグロビンが腎不全を生じて死に至った傷害致死事件であったのです。」この事例が示すように、組織検査は本当の死因を特定する決め手にもなる重要な検査のひとつであるといえます。

 

しかし、この組織検査を含む死因究明のプロセスに大きな課題があると岩瀬先生は指摘します。

孤立した法医学教室を変えなければいけない

岩瀬先生の指摘する課題とは、死因究明のプロセスにおいて法医学教室間の連携がほとんどないことです。

「今の日本の法医学教室は、基本的に3、4人で構成されていて、解剖や組織検査に対する鑑定は教室内のみで完結してしまうことがほとんどです。鑑定や検査結果に対して法医学教室間でディスカッションや情報のやり取りは行われず、それぞれ「孤立」してしまっているんです。これは、法医学教室にご遺体が運び込まれたときに、その法医学教室がもつ設備や得意分野により鑑定結果が左右されてしまうということに他ならないのです。」と警鐘を鳴らされています。

 

「この孤立した状況を変えなければいけません。孤立状況を解消し、日本の法医学をどう均てん化するか。質のコントロールをどう行うか。これが重要なのです。」

岩瀬先生が教授を務める千葉大学大学院法医学教室では、孤立状態を解消するために新しい試みを始めています。

「デジタル化」が「孤立」解消の糸口

-孤立解消のための新しい取り組みとはなんですか?

 

「大切なのは環境づくりだと考えています。そこで私たちは組織検査をデジタル化し、他の法医学教室との情報連携やディスカッションを行っています。」

千葉大学大学院法医学教室で導入しているのは、ガラススライドをスキャンし、デジタルデータに変換するシステム「バーチャルスライドスキャナ」です。ガラススライドをデジタル化し、検査結果や鑑定結果も合わせてデータ化・共有することで他の法医学教室との情報連携を図っています。

 

「私の法医学教室の中でもデジタル化したことにより、複数人で同じ画像を見ながらディスカッションできるようになりました。また、データのストックや検索が容易になったので、過去の鑑定結果や検査結果を探す作業一つとっても、PC1台で簡単に検索できてしまう。以前のように書庫に行って書類を探す必要もなく、ずいぶん楽になりました。」

千葉大学内でのディスカッションの様子

千葉大学内でのディスカッションの様子

-他大学との法医学教室とはどのように連携しているのでしょうか?

 

「私たちは、国際医療福祉大学と東京大学との3大学で共有サーバを持ち、施設間連携を行っています。平均週2回のペースで遠隔でのカンファレンスを行っており、デジタル化を取り入れる前と比べてスピーディーな情報交換を実現しています。」

「デジタル化」によってネットワークを介し、容易にディスカッションできる環境を構築すること。これこそが、孤立化を解消する糸口だと岩瀬先生は考えています。

 

「このような環境が広まれば、法医学教室間でのディスカッションはもちろん、若手の医師同士の情報交換や所属している教室越えたコンサルテーションが容易になります。孤立化している日本の法医学教室の現状を変えていく重要なきっかけになるはずです。」孤立解消の糸口となるデジタル化。これにより、ネットワークを通じた多施設間連携が進めば、どの法医学教室でも質の高い死因究明を行うことができる「死因究明の均てん化」が期待されます。

施設間連携のイメージ図

千葉大学内でのディスカッションの様子

デジタル化はもっといろんなことを変えてくれるかもしれない

岩瀬先生は、デジタル化がもたらす法医学の未来について次のように語りました。

 

「デジタル化はもっといろんなことを変えてくれるかもしれないと考えています。その一つは、法医解剖医の負担が軽減されることです。法医解剖医は全国で約150人と少なく、都道府県による偏りも大きい。一人の負担が非常に大きくなっています。施設間の連携が進めば、法医学教室の壁を越えた勤務シフトの確立ができ、一人一人の負担が軽減できるかもしれません。このような環境面の改善は、若手の法医解剖医の増加も期待できると考えています。もう一つ大きなポイントとしては、鑑定結果を国で管理するナショナルデータベースの保有です。韓国、スウェーデンやオーストラアなどではすでにナショナルデータベースを保有しており、日本とは全く環境が異なります。ナショナルデータベースを保有し、連携することは、さらなる死因究明の均てん化にも繋がるのです。」

岩瀬先生は、法医学の未来を変える可能性を秘めたデジタル化に大きな期待を寄せています。

千葉大学 岩瀬博太郎様

千葉大学大学院法医学教室 / 千葉大学附属法医学教育研究センターのご紹介

死因究明等はもちろん、臨床法医学も含め、法医学の新しい教育・研究の場として2014年4月に設立されました。2017年は年間360体を解剖し、2018年は年間440体(1日に2体)の解剖を行いました。教室員は、計31名(大学院生11名含む)が在籍し、大学法医学教室としては日本最大規模です。

千葉大学大学院法医学教室 / 千葉大学附属法医学教育研究センター

その他のお客様導入事例

2013年からバーチャルスライドスキャナで鏡検のデジタル化をはじめ、2019年にNanoZoomerを導入した株式会社アマネセル。バーチャルスライドスキャナを活用し、検査の質やサービスの向上を目指しています。

同社の代表取締役である高橋 秀俊 様、検査業務部 部長の會田 浄 様に獣医病理のデジタル化についてインタビューを行いました。

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