レーザフュージョンに挑む理由

レーザフュージョンで実現したいこと。それはレーザで地上に太陽をつくること。

光を生業とする浜松ホトニクスは、“レーザ”に着目し、長年にわたりレーザフュージョンの実現に向け取り組んできました。そこには、光の未知未踏に挑み続けている浜松ホトニクスならではの思いがあります。

川嶋 利幸
中央研究所 企画部 部長

当社のレーザフュージョン研究の開始当初から携わり、現場で研究の進展を見続けてきたキーパーソン。

※インタビュー実施時期:2025年8月

 

なぜ浜松ホトニクスはレーザフュージョンに挑むのか?

修理依頼から始まった、レーザフュージョンへの挑戦

浜松ホトニクスがレーザフュージョンに関わるようになったのは、今から約50年前、1970年代にさかのぼります。きっかけは、海外製のストリークカメラの修理依頼でした。この経験を通じて、レーザフュージョン研究の現場と接点を持つようになったのです。

そして1990年代、高出力の半導体レーザの開発に成功したことを機に、レーザフュージョンへの本格的な取り組みが始まりました。当時は、レーザフュージョン発電と共にレーザを活用した植物工場で米を育てるという構想もあり、エネルギー問題と食糧問題の両方を一気に解決するという壮大なビジョンを描いていました。

1995年に開発した2次元LDモジュール

私たちの暮らしにどう関わるのか?

燃料は無尽蔵、新たなクリーンエネルギー

レーザフュージョンの燃料は、重水素と三重水素という水素の同位体です。レーザフュージョンによる発電は、ミリサイズの燃料カプセルに高出力のレーザを照射することで核融合反応を起こし、発生した中性子のエネルギーを熱に変えて発電します。

重水素は海水に自然に含まれているため、海に囲まれた日本は無尽蔵なフュージョン資源に恵まれていると言えます。しかも、フュージョン反応の結果生まれるのはヘリウムの原子核と中性子だけ。有害な排出物が少なく、環境にやさしいクリーンなエネルギーになります。また、レーザ照射を止めれば、核融合反応も瞬時に止まるため、暴走の心配がありません。安全安心な社会の基盤をつくるために適した究極のエネルギーだと思っています。

なぜ「レーザ」なのか?

レーザで事業も社会も変える

2006年、浜松ホトニクスは産業開発研究所を設立し、レーザフュージョンの実験をスタートしました。2010年頃には、1秒間に1回、燃料ペレットを真空チャンバーの中に落とし、空中に飛来する燃料ペレットにレーザを制御して照射することで、連続的な核融合反応の実証に成功しました。

当社は、もともと「光を測る技術」を核に創業した企業です。そこから「光を発生する技術」へと事業を広げてきました。その流れの中で、レーザに注目するのは自然なことでした。

フュージョン発電をレーザによって実現することができれば、当社の事業はさらに大きく発展できるだけでなく、エネルギー問題と食糧問題という人類共通の課題の解決にもつながると信じています。

求められるレーザとは?

すべてが究極

レーザフュージョンに必要とされるレーザは、まさに「究極」です。高出力であることはもちろん、ビームの品質、信頼性、そしてコスト面でも究極が求められます。

発電として実用化するには、電気代を今よりも安くする必要があります。そのためには、高性能なレーザを低コストで提供するという、技術と経済性の両立が不可欠です。これが、最も難しい課題でもあります。

しかし、浜松ホトニクスには「光を検出する技術」と「光を発生する技術」の両方があります。レーザから検出器まで、すべて自社で開発できるという強みは、世界でも類を見ないものです。長年培ってきた光技術、総合力が、レーザフュージョン研究の大きな支えとなっています。

浜松ホトニクスのアプローチ

要素技術から製品開発まで

世界では、磁場でプラズマを閉じ込める「トカマク型」と、レーザなどの光を使って核融合を起こす「レーザ型」の二つの方式が主に研究されています。

トカマク型では、国際プロジェクト「ITER*1」が進行中。一方、レーザ型では、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所が「NIF (ナショナル・イグニッション・ファシリティ)*2」でメガジュール級のレーザを使った研究を行っています。

最近では、世界中でスタートアップ企業も登場しています。日本でも、大阪大学発のEX-Fusion社がレーザフュージョンに取り組んでおり、当社は2024年から共同研究を開始しました。

世界のレーザフュージョン研究は、巨大なレーザ装置による単発実験が中心ですが、それだけでは発電所は実現できません。実際の発電には、1発のレーザを1秒間に10回以上照射し、連続して核融合反応を起こす必要があります。

浜松ホトニクスは、高繰り返し・高効率のレーザを自ら開発して、小規模ながらも連続的な核融合反応を目指すという研究のアプローチをとっています。また、これに必要な励起用半導体レーザや大出力レーザ技術の研究開発プロジェクトを進めています。

励起用LDモジュール

200J×10Hz でレーザシステムが動作している様子(発光箇所がレーザ増幅部)

200 J × 10 Hzでレーザシステムが動作してる様子

*1 ITER: International Thermonuclear Experiment Reactor

*2 NIF: National Ignition Facility (国立点火施設)

未来へのビジョン

世界では多くのフュージョンに関するスタートアップが誕生していますが、基礎研究から製品・技術開発までを一貫して行っている上場企業は、浜松ホトニクスだけだと自負しています。

これは、創業以来、未知未踏への挑戦を続けてきた当社の姿勢そのものです。

レーザフュージョン発電の実現を通じて、レーザを新たな事業の柱へと発展させるだけでなく、エネルギー問題と食糧問題という人類全体の大きな課題の解決に貢献していきます。

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