レーザフュージョン

レーザ核融合

エネルギー問題と環境問題を解決するために

現代社会において、解決しなければならない課題のひとつにエネルギー問題があります。現在、日本の一次エネルギーは80 %以上が化石燃料から得られていますが、地球上にあるエネルギー資源には限りがあります。​世界的にみても、エネルギー消費量(一次エネルギー)は、経済成長とともに増加を続けています。石油換算では、1965年の37億トンから年平均2.4 %で増加し続け、2021年には142億トンに達しました。​

『一次エネルギーとは?』

石油、石炭、天然ガス、水力、原子力、風力、地熱、太陽光など、自然からそのまま得ることができるエネルギーのこと。​

■日本の一次エネルギー供給

日本の一次エネルギー供給

■世界のエネルギー資源可採年数

世界のエネルギー資源可採年数

■世界のエネルギー消費量(地域別、一次エネルギー消費量)

世界のエネルギー消費量(地域別、一次エネルギー消費量)

そのような状況のなか、海水中に無尽蔵にある水素の同位元素からエネルギーを取りだすことができるレーザ核融合(以下、レーザフュージョン)が、世界的なエネルギー問題解決の切り札として期待されています。​

また、レーザフュージョンを用いた発電は、二酸化炭素や窒素化合物を排出しないため、地球温暖化などの環境問題の解決への貢献も期待されています。​

浜松ホトニクスは、レーザフュージョンによる発電の核となる発電炉用のレーザ技術の確立を目指し、さまざまな研究開発に取り組んでいます。また、この取り組みを通じて培われたレーザ技術の産業応用・社会実装も目指しており、エネルギー・環境問題を中心に、多角的な取り組みで社会・環境・人類への貢献に向け、挑戦を続けています。​

地上に太陽を。

星の輝きも核融合

夜空に輝く星の光。実は、あの光の多くは核融合反応によってできています。星の中心で核融合反応が起き、そこで発生した膨大なエネルギーによって星は輝いているのです。​

私たちにさまざまな恩恵をもたらしてくれる太陽も核融合反応によりエネルギーを作り出しています。このことは、アメリカの物理学者ハンス・ベーテ(ノーベル物理学賞受賞者)によって明らかにされました。​

核融合の原理

核融合とは、材料となる2つの原子核同士を融合させ、より重い原子核になる反応で、この際、非常に大きなエネルギーが発生します。

レーザフュージョンでは、重水素と三重水素を燃料として使用します。重水素と三重水素の原子核が融合し、ヘリウムと中性子が生まれる核融合反応が起き、莫大なエネルギーを作り出しています。​

人の手で核融合を起こしてエネルギーを生み出すことができれば、さまざまな恩恵をもたらしてくれる太陽を、人の手で地上に作り出すことができるのです。

核融合の原理

持続可能な発展に貢献するクリーンエネルギー

レーザフュージョンの材料となる重水素は、海水中からほぼ無尽蔵に取ることができます。海水中の重水素の含有量は約0.015 %ほどで、理論上、30億年以上分あると言われています。​

ポリタンク1本 ( 20 L )で考えると、1本分の海水中に含まれる重水素 (0.6 g)から得られるエネルギーは、石油換算でポリタンク250本分に相当するため、非常に効率的にエネルギーを生み出すことができます。​

持続可能な発展に貢献するクリーンエネルギー

レーザフュージョンを用いた発電は、核分裂による原子力発電と比べて、発生する放射性廃棄物の量が少ないというメリットがあります。​原子力発電ではウランなどの高レベル放射性廃棄物が発生しますが、レーザフュージョンによる発電では高レベル放射性廃棄物は発生せず、従来技術で処理・処分が可能な低レベル放射性廃棄物しか発生しません。​

また、何らかの不測の事態が起きたとしても、核融合反応は燃料や電源を切ればすぐに停止するという性質があることから、安全性も高い発電技術となります。​

放射性物質の排出が少なく、二酸化炭素の排出もないレーザフュージョンによる発電により生み出されるエネルギーは、より安全で持続可能な発展に貢献するクリーンなエネルギーとなります。​

半導体レーザによるイネの人工室内栽培に世界で初めて成功

当社は、1970年代から現在に至るまで長きにわたりレーザフュージョンに関する研究開発を行っていますが、レーザフュージョンをきっかけとするレーザ開発技術は、半導体レーザによる植物栽培実験など、思いがけない成果も生み出してきました。​

1997年、太陽光の代わりに高出力の半導体レーザを用いることで、イネの人工室内栽培に世界で初めて成功しました。実験には当社がレーザフュージョン研究用に開発した技術を応用した、イネの葉緑体が最も活発に光合成を行う680 nmの半導体レーザが用いられました。「植物工場」での従来の栽培方法と比べ大幅な電力コストの削減や栽培期間の短縮も可能となり、将来の世界的な食糧不足解消の可能性を示しました。

2000年には、酒米の栽培を開始し、その酒米で醸した清酒「光の誉」を完成させました。

半導体レーザによるイネの人工室内栽培

半導体レーザによるイネの人工室内栽培

清酒「光の誉」

清酒「光の誉」

この取り組みは、「リッチリーフ®」の栽培を中心とした、農業にかかわる研究開発および農作業物生産を行う特例子会社「(株)浜松ホトアグリ」の設立につながっていきました。

レーザフュージョンによる発電の仕組み

レーザフュージョンでは、カプセル内部に封入された燃料(重水素、三重水素)にレーザ光を当てることで、燃料をプラズマ化し、圧縮させます。内部の燃料同士をぶつけ点火することで、核融合反応を起こします。​

この核融合反応を連続的に発生させることで、莫大なエネルギーを生み出すことができます。​

レーザフュージョンによる発電は、レーザフュージョンで発生したエネルギーを熱に変換し、発電に利用する方法が考えられています。

レーザフュージョンで繰り返し発生させた高速中性子をブランケットで吸収・遮蔽し、熱に変換。その熱を利用して蒸気タービンを回し、電力に変換する発電方法​

エネルギー問題の解決とレーザ新産業の創出

レーザフュージョンを実現する光技術

レーザフュージョンの実現には、キーとなる大出力レーザ装置だけでなく、核融合反応をとらえる光計測技術、光の性質を制御する光学技術など、多くの光技術が要素技術として用いられています。​

当社とレーザフュージョンとのかかわりは、1970年代に海外製ストリークカメラの修理を依頼されたことから始まり、1990年代に高出力の半導体レーザの開発に成功したことをきっかけに、レーザフュージョンによる発電の実現に向けて本格的に動き出しました。以来、30年にわたり、各研究機関と連携しながらレーザフュージョンに関するさまざまな研究開発に取り組んでいます。​

また当社は、高出力レーザ装置だけでなく、実験に必要な真空チャンバー、ターゲットなどの周辺技術、光電子増倍管やストリークカメラなどの検出器・計測技術まで、すべて自社保有技術で取り組んでいる唯一の民間企業となります。​

現在の取り組み​

大出力レーザ技術​ ​

実用炉での活用を想定した、フュージョン炉用レーザドライバの開発を行っています。​
さらなる高出力化を目指すレーザ増幅器の開発から、それに搭載されるレーザダイオードバーモジュールの研究開発・製造まで自社内で手掛けています。​

今後も、より核融合反応に最適化した、半導体レーザ、大出力レーザの開発に取り組んでいきます。​

関連プレスリリース:
『世界最高出力、250 Jの産業用パルスレーザ装置を開発』(2021年6月28日)

大出力レーザ技術

高密度プラズマ制御技術・計測技術​​ ​

燃料となる重水素と三重水素を封入する直径数mmのプラスチックカプセルの開発を行っています。
このカプセルは、燃料を爆縮する上で重要な役割を果たしており、高い真球性と壁厚の均一性が求められます。また、1回の核融合反応ごとにカプセルは消費されるので、レーザフュージョンによる発電では1秒間に10個、1年間では3億個を消費することになり、量産対応かつ低コストに製造する技術が求められます。​
 

レーザフュージョンの根幹となる大出力レーザの超高速現象を測定、観察する検出器の開発も行っています。​

計測用のストリークカメラは、極めて短時間のうちに生じる光現象を捉える超高速光検出器です。

高密度プラズマ制御技術・計測技術

レーザフュージョン研究​ ​

大出力レーザを連続的に照射できる特徴を活かしたレーザフュージョンによる発電の実現に向け、さまざまな研究開発を行っています。​

連続的に発生​ ​

レーザフュージョンによる発電を実現するためには、1秒間に10発の頻度で燃料ターゲットを照射する技術が必要です。​

そのためには、高い繰り返し周波数でレーザを安定かつ高精度に出射する技術のほか、燃料ターゲットを連続的に供給して、レーザ光を当てる技術が必要となります。

レーザ核融合研究​

連続的に計測​ ​

連続的に発生させた核融合反応を、連続的に計測する技術も非常に重要となります。​

さまざまな条件で行われた核融合実験のデータを大量に取得し、機械学習を活用した研究を進めることで、より効率が良い核融合反応を起こす条件の探索を目指しています。

 

・再現性のあるデータを大量に取得​

・データベース化・機械学習の活用​

レーザ核融合研究​

突き詰めた先に広がる応用

当社は、30年余りレーザフュージョンの実現に向け、高出力レーザ技術の開発を中心に取り組んできましたが、その過程で培った技術・生まれた製品は新たな応用も生み出しています。​

新たな応用の開拓  ​

光エネルギー応用研究

中性子応用

基礎科学 超高圧力の物理

製品・技術への展開

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