蛍光寿命 蛍光寿命

TRPL測定 / 蛍光寿命測定

蛍光寿命とは

蛍光寿命とは、蛍光色素等の分子が光励起されてから光子を放出して基底状態に戻るまでの時間のことです。最も単純な系では、蛍光強度が励起直後より1/eに減少するまでの時間と定義されます。蛍光寿命は、発光材料の種類によってピコ秒(10-12秒)からミリ秒(10-3秒)と様々です。例えば有機ELデバイスに使用される発光材料においては、デバイスの高速応答性を実現させるために高い発光効率と短い蛍光寿命が求められます。

蛍光寿命の定義

図1 : 蛍光寿命の定義

TRPL測定とは

TRPL(Time-resolved Photo Luminescence : 時間分解フォトルミネッセンス)測定とは、非常に短い時間幅をもつ励起光によりサンプルを光励起することで、そのサンプルから放出された蛍光やりん光などのフォトルミネッセンスの強度の時間変化を測定する手法です。TRPLの測定対象には蛍光やりん光を発する有機化合物、無機化合物に加え、バンド間再結合を生じる半導体も含まれます。TRPL測定の中でも、有機化合物や無機化合物が発するフォトルミネッセンスの時間分解測定は「蛍光寿命測定」と呼ばれます。

TRPL / 蛍光寿命の測定手法、測定原理

TRPLの測定にはいくつかの手法があり、時間相関単一光子係数(TCSPC)法、ストリーク法等がその代表例として挙げられます。

時間相関単一光子係数(TCSPC:Time Correlated Single Photon Counting)法

TCSPCとは、時間振幅変換器(TAC:Time-to-Amplitude Converter)を心臓部として用いた蛍光寿命測定法です。TCSPC法を用いた蛍光寿命測定装置は、一般的に、励起パルス光源、サンプルホルダ、検出器、データ解析装置から構成されます。検出器には主に光電子増倍管が使用されます。データ解析装置にはTACのほかにMCA(Multi-Channel Analyzer)が搭載されます。TACは励起光の発信時点をスタート、サンプルからの蛍光の検出時点をストップとする高速なストップウォッチのようなものであり、スタート - ストップ間の時間差を電圧として出力します。TACから出力された電圧はMCAによって時間情報に変換されます(図2a)。スタートとストップのサイクルを累積した後、取得したデータは縦軸がカウント値、横軸が時間のヒストグラムとしてプロットされ(図2b)、蛍光減衰曲線が得られます(図3)。

近年では、多くの場合TACの代わりにTDC(Time to Digital Converter)が使用されます。主な理由は、TDCの採用により測定装置の小型化が図れることです。

浜松ホトニクスの小型蛍光寿命測定装置Ouantaurus-TauはこのTDCを採用しています。

TCSPC法の原理図

図2a:TCSPC法の原理図

TCSPCによって取得されるヒストグラム

図2b:TCSPCによって取得されるヒストグラム

蛍光寿命測定データの例

図3:出力された蛍光寿命測定データの例

こちらの動画では、Quantaurus-Tauの使い方を紹介しています。

ストリーク法

ストリークカメラとは、極めて短い時間内に生じる光に伴う現象を捉える装置です。図4はストリークカメラの動作原理を示しています。ストリークカメラは、主に光電面、加速電極、掃引電極、マイクロチャンネルプレート (MCP) 、蛍光面から構成されています。ストリークカメラに入射した光子はまず光電面で電子に変換され、スリット上の加速電極を通過して加速されます。加速された電子群は掃引電極を通過する際に、タイミングを合わせて電圧が電極に印加され、電子群が上下に偏向されます。偏向した電子群はMCPによって約1000倍に増倍され、蛍光面で光に再変換されます。蛍光面上では、横軸を空間、縦軸を時間とするストリーク像を取得することができます。この際、ストリーク像の明るさは、それぞれの光子の強度に比例します。

また、ストリークカメラの前に分光器を入れると、横軸が波長、縦軸を時間とするストリーク像を取得することが可能になります。これは時間分解測定とスペクトル測定を組み合わせた時間分解発光分光法(Time-Resolved Emission Spectroscopy:TRES)と呼ばれ、発光の時間的特性とスペクトル特性の両方を調べることができます。

 

浜松ホトニクスのストリークカメラは800 fs (フェムト秒) 以下という極めて高い時間分解能を有しています。

ストリークカメラの動作原理図

図4:ストリークカメラの動作原理図

ストリーク像の例

図5:ストリークカメラで取得されたストリーク像の例

こちらの動画では、ストリークカメラを用いた測定例や原理などを紹介しています。

発光材料の蛍光寿命測定事例

青色有機LED材料からの熱活性化遅延蛍光

熱活性化遅延蛍光(TADF:Thermally activated delayed fluorescence)は、りん光材料に代わる高効率、安価な第3世代有機EL材料として注目されています。下図は青色TADF材料の発光寿命測定例です。高効率化を達成するためには、励起一重項(S1)状態と励起三重項(T1)状態のエネルギーギャップを小さくする分子設計が重要とされています。

TADF材料においては、S1状態とT1状態のエネルギー差ΔESTの小さい分子の遅延蛍光がマイクロ秒オーダーであるのに対し、ΔESTの大きな分子の遅延蛍光はミリ秒オーダーと長くなっていることが観測されました。

青色有機LED材料からの熱活性化遅延蛍光

TADFの蛍光寿命データ

TADF材料の化学式

データ提供:九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター 安達 千波矢 様、中野谷 一 様

Q. Zhang, B. Li, S. Huang, H. Nomura, H. Tanaka & C. Adachi, Nature Photonics, 8, 326 (2014).

使用機器:Quantaurus-Tau

Tris(2-phenylpyridine)iridium(CBP膜上にドープ)のストリーク像とりん光減衰曲線

360 nm~450 nmに比較的短い発光寿命を持つ蛍光、470 nm~640 nmに長い発光寿命をもつりん光が見られ、それぞれ温度依存性を有しています。例えば、りん光寿命(平均値)は、0.9 ㎲(300 K : 青線)から31.4 ㎲(4.5 K : ピンク線)と温度の低下に伴い長くなっています。

300 Kにおける時間分解発光スペクトルのストリーク像

300 Kにおける時間分解発光スペクトルのストリーク像

4.5 Kにおける時間分解発光スペクトルのストリーク像

4.5 Kにおける時間分解発光スペクトルのストリーク像

りん光減衰曲線

りん光減衰曲線

データ提供:九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター 安達 千波矢 様

2Dペロブスカイトの研究のための分光・時間分解機能を備えたストリークシステム

2Dハライドペロブスカイトは、強い光と物質の相互作用、化学的多様性、そして幅広い光電子デバイスへの応用可能性を兼ね備えていることから、非常に注目されている材料群です。さらに、電子的、光学的、振動的な励起状態の間に強い相互作用が存在するため、基礎研究および将来の技術応用の両面で興味深い対象となっています。しかしながら、これらの材料は、電気的ドーピングを制御して導入することが困難であるという大きな課題に直面しています。この研究では、2Dペロブスカイトを用いたゲート可変デバイスを対象に、時間分解測定とスペクトル・空間分解解析を組み合わせたトランジェント顕微鏡法を用いて、自由電荷キャリアの可逆的な電気注入を観察しました。この電気注入は、n型およびp型の両方のシナリオで実現され、全光学的な読み出しによって電気的に可変な光応答が示されました。浜松ホトニクスのストリークカメラの高感度および時間分解能により、2Dハイブリッドペロブスカイトにおける荷電励起子複合体の再結合ダイナミクスおよび空間的伝播を直接観察することが可能となりました。これにより、ハイブリッド無機有機半導体におけるナノスケール光電子デバイスへの応用に向けた、電気的に可変な光励起の利用に関する新たな可能性が開かれました。

Temperature- and spatially-dependent photoluminescence

Temperature- and spatially-dependent photoluminescence

Temperature-dependent streak camera images detecting the PL in the spectral range of the trion emission and illustrating the increased broadening over time at elevated temperatures. White dashed lines are guides-to-the-eye for 20 and 50K.

Time- and spectrally-resolved PL emission

Time- and spectrally-resolved PL emission

a. Streak camera image of the PL emission in the n-doped regime at 5 K.

b. PL spectra for different time-intervals after the excitation, extracted from (a).

データ提供:Prof. Alexey Chernikov, his group, and their collaborators (Institute of Applied Physics and Würzburg-Dresden Cluster of Excellence, TU Dresden).

Jonas D. Ziegler, Yeongsu Cho, Sophia Terres, Matan Menahem, Takashi Taniguchi, Kenji Watanabe, Omer Yaffe, Timothy C. Berkelbach, Alexey Chernikov, Advanced Materials 2023, 35, 2210221

おすすめ製品

弊社では、必要な時間分解能に応じて大きく2種類の蛍光寿命測定装置をラインアップしています。

サブナノ秒~ミリ秒の蛍光寿命を測定する装置です。簡単操作で高精度な蛍光寿命測定が可能です。

二次元フォトンカウンティング法による高感度と800 fsの高時間分解能を実現した蛍光寿命測定装置です。多波長にわたる蛍光寿命を同時に測定します。

お客様導入事例

国立大学法人 九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA) 様が研究開発を行っている有機光エレクトロニクス材料やデバイスの評価を行うためには、発光量子収率の測定や蛍光寿命の測定などさまざまな測定法を用いる必要があり、これらの評価のために弊社のQuantaurusシリーズ、ストリークカメラなどを導入いただいております。

同センターのセンター長である安達 千波矢 様、副センター長の中野谷 一 様に絶対発光量子収率測定法確立までの経緯や弊社のQuantaurusシリーズの研究への影響、今後の研究の展望についてインタビューを行いました。

その他の測定手法

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