フォトンによる光合成評価技術

カーボンニュートラル・バイオ資源生産・水質汚染の評価に貢献

光デバイスを活用して光合成を評価する技術の開発とその応用に取り組んでいます。この技術は生態系保全、農薬開発、水質浄化、緑化、水産養殖、大気評価への応用が期待されています。
光合成は持続可能な社会の基盤として、私たちの生活と産業に、食糧・バイオマスを供給するとともに、環境浄化、生態系保全に重要な役割を担っています。光合成を研究することで、環境汚染を低減し、海の豊かさ、陸の豊かさを育む社会の実現や、環境負荷が低く循環可能なバイオマスベースの社会の実現に貢献します。

植物フォトン(遅延蛍光)とは?

植物フォトンとは、藻類・植物など“光合成生物”から検出される非常に弱い発光です。光電子増倍管やMPPCなどのフォトン検出器や、増倍機能をもつ高感度カメラにより検出することができます。
植物フォトンを測ることにより、光合成の動きを直接見ることができます。光合成では、クロロフィルは光エネルギーを使って水を分解して電子を取り出します。電子は伝達体分子に蓄えられ、そのほとんどが光合成のエネルギーとして使用されます。蓄えられた電子のごく一部が逆反応して「植物フォトン」に変換されます。植物フォトンは、外部からの光が消えた後に暗所でゆっくりと光り、光電子増倍管を内蔵した高感度カメラで検出できます。

カーボンニュートラルに貢献する光合成研究

化石資源由来のCO₂放出は、新型コロナウイルス感染症の影響で産業活動が縮小したため、2020年に低下したものの、その後、各国の経済活動の再開により再び増加傾向に転じています。現在、さまざまなCO₂排出を削減する施策が行われていますが、大気中のCO₂が減らないという問題があります。そのため、2050年カーボンニュートラルの実現にはCO₂を吸収するネガティブエミッション産業の開発が必要とされています。

このような社会ニーズに応えるために、化石資源に依存した産業構造「オイルエコノミー」から光合成によりCO₂から生産されるバイオ資源を利用した「バイオエコノミー」への開発が進められています。光合成による炭素循環を基盤として、さらにリサイクル等の資源循環を組み合わせた「サーキュラーバイオエコノミー」は持続可能社会の実現に貢献します。

環境×ホトニクス ビジョン紹介動画

■関連製品

■可視画像、フォトカウンティング画像の比較

可視画像

フォトカウンティング画像

■植物フォトンの計測動画

応用例①:植物フォトンで藻類の健康状態をリアルタイム評価

バイオエコノミーの実現に向けて、CO₂を資源化できる藻類などの微生物を利用したバイオプラスチックやバイオ燃料、食糧や機能性成分の生産、環境浄化などを行う技術の研究が注目されています。藻類は、CO₂を吸収して高効率でバイオマスを生産することができますが、その外見は「緑色の水」です。植物などと違い、生育状態を外見で判断することが困難です。また、藻類の産業応用では、培養槽内で自然界の1000倍の高密度培養を行うため、その生育管理や収穫判断にセンサ技術が必須とされています。ここに植物フォトンによる合成評価技術を活用することができます。当社は実験用の培養槽(バイオリアクター)に光電子増倍管と小型分光器によるオンサイトセンサを搭載することで藻類の状態をリアルタイム計測し、AI解析により健康状態の変化を予測して培養制御を行う、培養DX技術の開発に取り組んでいます。

 

本技術の社会実装研究の一つとして、広島大学が代表機関を務める科学技術振興機構の「令和3年度・共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)本格型」、課題4「微細藻類および植物による有用物質生産プラットフォームの開発」に参加し、有用藻類ナンノクロロプシスを利用した健康機能成分エイコサペンタエン酸(EPA)やバイオ燃料生産に適した油脂の高生産化を推進しています。

応用例②:植物フォトンで水質汚染の生物影響を迅速に評価

世界中で使用される化学物質は10万種とも言われています。環境中に放出された場合の人や生物に対する有害性(環境リスク)は、化学分析とバイオアッセイにより把握することができます。化学分析は物質量を計測するもので、GC/MSやLC/MSなどの機器が用いられます。バイオアッセイは、生物を用いて物質量と有害性の関係を検査する手法です。魚、ミジンコ、藻類、植物などが用いられます(化学物質審査規制法、農薬取締法)。物質量と有害性の関係は、化学物質の有害性リスクの判断や、安全な化学物質の開発に役立てることができます。

植物フォトンは、水質汚染を評価するためのバイオアッセイに役立つと期待されています。藻類は光合成によるバイオマス生産で生長します。化学物質により藻類の代謝が阻害されると、バイオマス生産が低下し、生長速度が低下します。従来のバイオアッセイでは、細胞数を数えることで生長阻害を評価しています。当社は、光合成を反映する植物フォトンの発光阻害を評価することにより、短時間で生長阻害を推定する技術を開発しました。この技術は藻類発光法と呼ばれています。

ISO 23734に対応

植物フォトン(遅延蛍光)は、海底資源開発での環境開発での環境影響評価に関わる調査手法として国際標準規格(ISO 23734-2021)に採用されています。当社と国立環境研究所の共同研究により、短時間で生長阻害を推定できる特徴が、船上での環境影響評価に適していることが分かりました。したがって、資源採掘により発生する重金属等による水質汚染の有無を洋上で検査することができます。

 

国立環境研究所 プレスリリースはこちら
 

ISO 23734:2021「Marine technologyーMarine environment impact assessment(MEIA)ーOn-board bioassay to monitor seawater quality using delayed fluorescence of microalga」について詳細はこちら

 

参考文献

お問い合わせはこちらからご連絡ください。