ガンマ線高時間分解検出技術

検出器コンセプト

高時間分解能な陽電子放射断層撮影(PET:Positron Emission Tomography)用検出器を実現するために、当社はチェレンコフ放射に着目しました。チェレンコフ放射は従来のシンチレーション放射に比べて即発的に放射されるため高時間分解能が期待されます。更に、モノリシックな輻射体を採用することでチェレンコフ光の輻射体中での散乱を抑えられるため、時間分解能の向上が期待されます。しかし、チェレンコフ光は発光量が少ないという難点があります。少ない発光量で正確にガンマ線の相互作用位置を推定するために、狭ピッチの光検出器アレイを独立読み出しする案を採用しました。

■特長

モノリシックチェレンコフ輻射体
 →チェレンコフ光の時間特性を最大限に利用するため
全素子独立読み出し
 →少ないチェレンコフ光 (数光子) から多くの情報を得るため

検出器コンセプト

光検出器への要求特性

上記の検出器コンセプトの元、モンテカルロシミュレーションを行いました (参考文献 1)。シミュレーションによって光検出器への性能要求が明確になりました。具体的には、光検出器は『①読み出しピッチが細かいこと』、『②単一光子時間分解能 (SPTR) が良いこと』、の2点が必要であることが分かりました。
例えば、20 mm厚の輻射体を用いて同時計数時間分解能 (CTR) で100 ps FWHMを達成するためには、SPTR< 40 ps σが必要となります。ガンマ線の相互作用位置推定の精度を向上させるためにディープラーニングを用いた手法についても検討しています(参考文献 2)。

CTRの検証

シミュレーションの妥当性を評価するためにCTR測定実験を行いました。光検出器として、SPTRが優れているMCP-PMT (R3809) を採用しました。このMCP-PMTのSPTRは25 ps FWHMであることが分かっています。
MCP-PMTにチェレンコフ輻射体 (フッ化鉛、PbF2) をカップリングしたチェレンコフ検出器を試作し、CTRを測定したところ、50 ps FWHMより優れた結果が得られました (参考文献 3)。この結果は先のシミュレーション結果から予測される値とほぼ一致しました。

チェレンコフ輻射体内蔵型MCP-PMTの開発

チェレンコフ輻射体内蔵型MCP-PMTの開発

上記で示したチェレンコフ検出器は、輻射体とMCP-PMTの窓材の間に光学界面が存在するために時間分解能が劣化してしまいます。その光学界面を避けるために、MCP-PMTの窓材をチェレンコフ輻射体に置き換えた”チェレンコフ輻射体一体型MCP-PMT”を試作しました。輻射体と光電面の間にALD (Atomic Layer Deposition) で保護層を形成することで、輻射体の透明度が保たれています。

 

試作した検出器を用いてCTR測定を行ったところ、CTR = 41.9 ps FWHMが得られました(参考文献 4)。さらに、詳細な解析を行った結果、CTR=30.1 ps FWHMを得ることができました。

 

ェレンコフ輻射体内蔵型MCP-PMTの開発

性能改善および環境への取り組み

さらに、材料を一から見直すとともに、上記のALDを応用した独自の成膜技術により、特定の有害物質の使用を制限するEU のRoHS指令の規制物質の一つである鉛を含有せず、低ノイズで信号の増倍率 (ゲイン) が高いALD-MCPを開発しました。

 

 

性能改善および環境への取り組み

このALD-MCPを利用することで、検出器の時間特性が向上することを確認しました (参考文献6)。同時計数実験により、その時間特性は従来のMCPを用いた場合の41.9 ps FWHMに対し、35.4 ps FWHMまで向上しました。

同時計数実験

画像再構成不要イメージング

上記の検出器対を用いることで、画像再構成処理を行うことなく、一対の検出器による高精度の陽電子放出核種のイメージングに世界で初めて成功しました (参考文献7)。本研究成果を応用することで、従来のPET装置と同等レベルの高い精度をもちながら、シンプルかつコンパクトで迅速な診断を行うことができる全く新しい形状の放射線検査装置の実現が期待できます。これにより、がんなどの病変の検査効率が向上するとともに、被ばく量を低減できることから、患者や医療従事者の負担を軽減することができると見込まれています。今後は深層学習などを用いてさらなる検出器の時間特性の向上を行いつつ (参考文献8)、本コンセプトの社会実装を目指しています。

画像再構成不要イメージング

■画像再構成不要イメージング 実験的検証

画像再構成不要な形態情報取得法

PET装置は、X線コンピュータ断層撮影 (X線CT)装置と併用されることが一般的です。PET装置から取得できるデータは通常、被写体の機能情報を含んでいますが、形態情報は含まれていません。より定量的なPET画像を得るためには、被写体の形態情報を利用してPETデータの補正を行う必要があります。そのため、X線CT装置が形態情報取得装置としてPET装置と共に利用されます。

上述の研究成果を発展させることで、PET装置よりもコンパクトな検査装置の実現が見込まれますが、この装置もPET装置と同様に機能情報を取得する装置であるため、より定量的な画像を取得するためには形態画像を取得可能な装置との併用が必須となります。当然、X線CT装置を利用すれば被写体の形態情報は取得できますが、X線CT装置は大型であるため、当社が提案する新規の装置がコンパクトになったとしても、装置全体が大きくなってしまってはその効果を最大限に発揮できません。

そのような課題を解決するために、当社は上記の超高時間分解能検出器を利用した新たな形態画像取得法を提案しました(参考文献9)。本手法では、ガンマ線と物質の相互作用の一つとして知られるコンプトン散乱が物質の電子密度に比例することに着目し、ガンマ線と被写体がコンプトン散乱する箇所を超高時間分解能検出器を用いることで画像再構成することなしに同定し、被写体の三次元電子密度分布をイメージングする手法を考案しました。この三次元電子密度分布は被写体の形態情報として利用することができ、より定量的な画像が得られる可能性をモンテカルロシミュレーションにより検証しました。

形態情報取得法の理論的解釈

被写体の形態情報は上述のアルゴリズムにより取得できることが証明されましたが、その形態画像の空間分解能は直感的に期待される空間分解能と比べて有意に悪いということも同時にわかりました。そこで提案アルゴリズムを理論面から解釈しその原因の解明に努めました (参考文献10)。理論的な解析の結果、ある特定の条件でコンプトン散乱が起こった場合に形態画像の空間分解能が劣化することを突き止めることに成功しました。その後、更にモンテカルロシミュレーションによりそのような条件のイベントを排除することで形態画像の空間分解能が向上することが示されました。

参考文献

関連特許

特許第6752106号

特許第6814021号

特許第7255973号

特許第7100549号

特許第7132796号

特許第7454402号

特開2020-20577

特開2024-33150

お問い合わせはこちらからご連絡ください。