健康 (未病)チェックマーカ 『好中球活性評価システム』

好中球は、病原菌などの侵入に対して体内で最初に働く免疫細胞で、自分の中に病原菌などを捕食することで活性酸素を能動的に産生し、攻撃します。好中球が酸素から直接作る活性酸素はスーパーオキシド (O2-・)で、それほど強力ではありませんが、同時に顆粒から放出するミエロペルオキシダーゼ (MPO)という酵素によって、塩素 (Cl-)や臭素 (Br)と反応して、次亜塩素酸 (HOCl)や次亜臭素酸 (HOBr)といった強力な活性酸素種を作り出します。これらは、生体防御にとても貢献しますが、同時に正常な組織も傷つけて炎症が起こってしまいます。炎症は、活性酸素を増加させて酸化ストレスを引き起こします。

 

当社は、この酸化ストレスの原因となる好中球の過剰活性化に着目し、好中球の活性化指標であるスーパーオキシド(O2-・)産生とMPO活性(次亜塩素酸イオン(OCl⁻)産生)を、化学発光(CL)と蛍光(FL)という二つの光情報に変換して検出する好中球活性評価システムを確立しました。血液3 µL中に含まれる好中球の活性を好中球分離などの複雑な操作なく、希釈するだけの簡単な操作で、リアルタイムに計測できることが本システム最大の特長です。

図1.活性酸素生成の仕組み

原理

本システムでは、好中球が自然免疫反応時に産生する2種類の活性酸素 (O2-・ 、OCl⁻)を2種類の光信号 (化学発光、蛍光)でマーカとしてモニタし、生体内の好中球の活性バランスを評価します。

図2.O2-・産生・OCl産生の同時計測

図3.計測原理

血液試料に最適化したシステム一式

色や濁りのある血液試料用に、ディスポーザブル樹脂製薄型の専用計測容器および、その容器に最適化した光学ユニットが組み込まれた蛍光・発光同時計測装置です。着色試料からの蛍光検出に適した表面蛍光の集光と励起光のカットを効率化することで、精度の良い高感度な蛍光・発光同時計測が実現しています。

本システムは2試料を同時に計測できるため、再現性の確認やリファレンスとの比較計測も可能です。

図4は、同一血液試料から、4つの計測試料を調製、4チャネル同時に計測した結果です。4チャネル間の誤差はそれぞれ、CL:2.62 %、FL:1.74 % (Kazumura et al.,Sci Rep. 2021)であり、高い再現性・安定性が確保されていることがわかります。

図4.同一血液試料を4つのチャネルを使って同時に計測

阻害剤による信号の検証

図5、図6は、O2-・の消去剤であるSOD (Superoxide Dismutase)とMPOの特異的阻害剤4-ABAH (4-Aminobenzoic Acid Hydrazide)を共存させた同時計測結果です。目的としているO2-・産生とOCl⁻産生が検出できていることが確認されています。

図5.ヒト血液試料による好中球のMPO活性とO2-・産生

図6.刺激剤添加による各信号増加量を専用解析ソフトにて算出

研究例

これまでに本システムを導入した臨床研究の一部について紹介します。

研究例1
~7000例以上のデータを収集・検査や生活習慣などとの関連性の解明~
大規模横断・縦断研究

生化学検査や生活習慣、疾患、加齢などとの関連性の解明と基準範囲設定を目的とした大規模 (7000例以上)横断・縦断研究を、 (一般財団法人)浜松光医学財団 浜松PET診断センターとの共同研究で実施しました。

実施スケジュール

受診者 (研究参加に同意済)の生化学検査用血液より残血を一部分取

<中間評価による暫定基準範囲の設定>

2020年2月より開始し、2022年3月末までに蓄積した約3000例を用いて中間評価を行い、暫定基準範囲を設定しました。

①3082例から健常者を抽出

基準集団となる正常な被検者の抽出を既往歴、服薬情報、画像検査結果に基づいて行いました (図7)。炎症マーカーとしての利用を想定した基準範囲の設定が目的のため、潜在的な炎症過程とみなした、全身FDG/PETにおける炎症性FDG取り込みやX線CTにおける血管石灰化が見られた例も除外しました。その結果、進行中の病歴や炎症のない344人の正常な被験者を抽出し、基準集団としました。

 

※基準範囲は、丹後法1)-3)に従い設定
1) 丹後俊郎. 医学データ:デザインから統計モデルまで 共立出版2002; 42–61.

2)Tango T. Estimation of age-specific reference ranges via smoother AVAS. Stat Med 1998; 17: 1231–1243.

3)Tango T. Estimation of normal ranges of clinical laboratory data. Stat Med 1986; 5: 335–346.

図7. 健常者の抽出条件

②新型コロナワクチン接種の影響を検討 (344例中 接種あり: 99例、接種なし: 245例)

COVID-19ワクチン接種 (接種後4週間以降)による炎症の可能性について検討しました。

そのうち、OCl⁻産生のみ顕著な有意差 (p<0.001)があったため、接種群を基準集団から除外しました。

③性・年齢の影響を検討

O2-・産生は344例、OCl⁻産生は245例を基準集団として、それぞれ性別および年齢で層別化する必要があるか調べました。

O₂⁻・産生において、男女間で統計的に有意差はありませんでした (図8)。

変換関数X^lambdaを用いて算出した基準範囲の下限 (2.5パーセンタイル)および上限 (97.5パーセンタイル)は、それぞれ3.33 ×10⁵および27.90 ×10⁵となりました (図9)。また、加齢による特徴的な変化は視覚的にも数値的にも観察されませんでした。

図8. 男性および女性のO2-・産生のヒストグラム

図9. O2-・産生の年齢分布
(黒線:基準範囲の上下限、赤線:年齢別の推定基準区間)

OCl⁻産生においては、男女間で統計的に有意な差 (p=0.011)が認められました  (図10)。

男性は、変換関数LogXを用いて算出した基準範囲の下限 (2.5パーセンタイル)および上限 (97.5パーセンタイル)は、それぞれ1.49 ×10³と6.29 ×10³となりました (図11)。女性は、変換関数LogXを用いて算出した基準範囲の下限および上限は、それぞれ1.25 ×10³と5.73 ×10³となりました。性別と年齢で層別化したため、サンプルサイズが小さくなり、各年齢の推定値は算出できませんでした。

図10. 男性および女性のOCl-産生のヒストグラム

図11. 男性および女性のOCl-・産生の年齢分布
(実線:基準範囲の上下限)

<最終評価>

2025年3月末までに蓄積できた7263検体を用いて、より精度の高い基準範囲を設定しています。

また、画像情報、生化学検査や生活習慣、疾患、加齢などとの関連性についての解析、繰り返し受診者の症例による縦断的変化の解析も行う予定です。

研究例2
~平常時の安定性や反応の俊敏性、早期の異常検出を確認~
健常者縦断研究 (パイロットスタディ)

健常被験者8名 (30代、40代、50代、60代男女各1名)を対象に数ヶ月繰り返し計測を行いました。

採血時にその日の体調などをヒアリングします。その際、特に変わったことはないと回答した日を平常時とし、平常時の各値の平均値とそのバラつき (CV)を、%で示しています (図12、13、14)。平常時のバラつきは、O2-・産生、OCl産生ともに、好中球数と同程度で安定しており、何か身体にイベントがあった時に、そのバラつき範囲を超えて大きな変動として検出できることがわかりました。

30代女性の場合、花粉症の症状が出始めた頃から特にOCl産生が上昇していますが、咳喘息と診断を受け、処方薬を服用したことで値が改善しています (図12)。30代男性の場合、78日目に前日の約3倍の高い値が観察されました (図13)。ヒアリング時、喉の痛みはあるが、発熱はないとの回答でしたが、その後悪化したことにより、のど風邪と診断され、抗生物質を処方されました。発熱もありましたが、服薬により翌日には回復、好中球活性も低下しております。いずれもCRPよりも早い異常検出ができています。

図14は、30代女性のO2-・産生、OCl産生を、その時の好中球数で割った値をプロットしたものです。つまり、好中球の質=活性酸素産生能力を表しています。OCl産生能力は、炎症に関連することが示唆される結果となっています。

研究例3
~食後一過性酸化ストレスの負担軽減へ~
脂肪負荷試験

健常若年女性8名を対象に、脂肪負荷による食後一過性酸化ストレスの評価を行いました。12時間絶食状態で、試験食のOFTTクリーム (脂肪0.35 g/kg)を含む飲料を摂取し、0、0.5、1、2、4、6時間後に血液サンプルを採取、好中球活性を計測しました。好中球活性測定と同じ時点で、血中の酸化ストレスマーカと血液生化学マーカも計測しており、トリグリセリドは摂取後4時間でピークに達し、6時間でほぼベースラインに戻るという過去の報告と一致した結果を得ています。

O2-・産生とOCl産生は、ともにトリグリセリドより早く上昇し、O2-・産生は摂取後2時間でピークに達しました (図15、p<0.05)。OCl産生は摂取後1時間で有意に増加し (p<0.05)、摂取後2時間でピークに達しました (図16、p<0.01)。これらの結果により、食後の酸化状態を捉える初期マーカとしての有用性が確認されました。

血液使用量が最小限に抑えられる本システムでは、短時間で複数タイムポイントのサンプリングが必要な研究において、被検者や作業者の負担軽減に有利であり、急性酸化ストレス分野の研究の加速に貢献が期待されます。

活性酸素生成の仕組み

図15.脂肪負荷試験 (O2-・産生)

活性酸素生成の仕組み

図16.脂肪負荷試験 (OCl⁻産生)

研究例4
~好中球数だけでは反映できない情報を検出~
体調不良のアカゲザルの計測

(數村, COSMETIC STAGE. 2021)

(Takeuchi, et al., J Clin Biochem Nutr. 2025)

アカゲザルの異常個体 (10日以上体調不良)と健康個体とを比較計測しました。

異常個体では、CRPが5.4 mg/dLと極端に高値を示しており、重度な炎症疾患に罹患していることが疑われました。一方、好中球数は0.67×10cells/μLと、健康個体と比較して一桁少なくなっており、好中球生産能力が失われていると考えられました。

本システムで得られた結果は、O2-・産生は好中球数と連動して低値を示したのに対し、OCl⁻産生は健康個体と比較して3倍以上の顕著に高い値を示しました。本個体は、安楽死後の解剖により、敗血症の疑いと診断されました。これらの結果より、OCl⁻産生は炎症状態を反映すると考えられ、好中球数だけでは知りえない情報が、本システムで得られる可能性が確認されました。

  健康個体 異常個体
好中球数 (×10³ cells/μL) 4.18 0.67
CRP (mg/dL) 0 5.4

健康個体と異常個体の好中球活性

その他完了した臨床研究

・膿疱性乾癬に対する顆粒球吸着除去療法前後の好中球活性評価 (2症例) (Higashi et al., Ther Apher Dial. 2025)

→患者は健常者と比較して桁違いに高値・治療効果を反映できることを確認 (鹿児島大大学院医歯学総合研究科 感覚器病学 皮膚科学と共同で実施)

 

・動脈硬化患者カテーテル治療前後比較試験 (30症例) (Takeuchi et al., Adv. Redox Res.2025)

→O2•-が、EVT直後に有意に増加=虚血再灌流の影響を確認 (中津川市民病院と共同で実施)

 

・ハトムギの二重盲検並行群間比較試験 (120名) (Oya et al.,J Nutr Sci Vitaminol. 2024 70(3):280-287)

→小山市、ヘルスケアシステムズと共同で実施

 

・大豆ペプチド粉末飲料が運動(試合)後の免疫機能および翌日の自覚的疲労度に及ぼす影響 (九共大研究紀要 2024)

→九州女子大、九州共立大で実施

 

• 動脈硬化患者カテーテル治療効果1ヶ月モニタ試験 (30症例) (Takeuchi et al.,J Clin Biochem Nutr. 2023)

→OCl-/O2•-がEVT後に有意に減少することを確認 (中津川市民病院と共同で実施)

 

• 健常者3名による原理検証、食事前後比較等 (Kazumura et al.,PLOS ONE. 2018)

→好中球数との相関、阻害剤による検証などから、好中球活性が評価できることを確認

 

• 動脈硬化モデルマウスでLPSによる発症抑制効果の検証 (Kobayashi et al.,PLOS ONE. 2018)

→香川大学医学部と共同で実施

 

• アルツハイマー症モデルマウスでLPSによる発症抑制効果の検証 (Kobayashi et al.,PLOS ONE. 2018)

→香川大学医学部と共同で実施

 

• 高血圧モデルラットで高血圧と脂質代謝異常の発症経過観察 (Zhang et al.,Anticancer Res. 2018)

→自然免疫制御技術研究組合と共同で実施

将来展望

現在、普及タイプと計測キットの開発に取り組んでいます。POCT (Point of Care Testing)マーカや健康チェックツールといった未病・医療・予防領域などに広く応用することで、医療費削減・健康長寿社会実現への貢献を目指します。

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