質量分析 質量分析

質量分析イメージング

質量分析イメージングの原理

質量分析は、高分離能・高感度な検出が可能であり、様々な分析手法と比較しても独自の立ち位置を築いています。質量分析イメージング (Mass Spectrometry Imaging, MSI)は、質量分析の特長を活かしつつ、成分の局在情報を画像として取得できる革新的な手法です。この局在情報は、抽出・揮発を伴うLC-MSやGC-MSでは通常得ることができず、MSIを実施する大きなメリットとなります。一般的には、以下のようなステップで分析が実施されます。

ステップ1:脱離・イオン化

試料を局所的に脱離・イオン化させ、クロマトグラフィーを介さず質量分析装置に直接導入してマススペクトル (相対質量電荷数比 m/zとその強度のプロット)を取得します。この局所的なプロセスを試料全面で走査することで、1ピクセルごとにマススペクトルを保有したデータセットが得られます。

ステップ2:画像化

MSIデータ専用のソフトウェアを使用してイメージに変換します。任意のm/zを選択し、その強度をカラーマップとして画像化することで、イオンイメージが得られます。選択するm/zごとに、それに対応するイオンイメージが得られます。                                                                          

ステップ3:解析

試料光学画像とイオンイメージを組み合わせることで、注目するイオン (成分)がどこで検出されたかを視覚的に解析することが可能です。

 

 

MSIの測定機能は、質量分析装置のオプションとして用意されており、得られる結果は装置仕様に依存します。例えば、高い質量分解能をもつ装置であれば、MSIの結果も同様に高い質量分解能で得られます。また、MSIでは数~数十μm程度の分解能でイオンイメージ (分子分布)を得ることが一般的です。分解能に寄与する測定パラメータは手法によって変わりますが、レーザ脱離イオン化法であれば、レーザ照射径と照射ピッチを目的に応じて調整します。

質量分析イメージングの特長と課題

特長

  • イメージによる直感的な理解が可能
    イオンイメージは視覚的情報としてインパクトがあります。専門でない方がマススペクトルを読み解くことは困難ですが、イオンイメージがあれば理解の助けとなります。広範囲 (例えばスライドガラスサイズ)のイメージングであれば、肉眼に近いスケールで直感的に成分分布を把握できます。
  • 多成分の同時イメージング
    MSIの測定では原則として、特定の分子を検出するためのラベル試薬を必要としません。加えて、先述のとおりピクセルごとにマススペクトルデータを保有するため、多成分のイメージングが一回で測定できます。ある成分とその他の成分との空間的相関を評価する上で役立ちます。
  • 高い拡張性
    多様な質量分析技術を活用することで、様々な種類のイメージングデータを取得することができます。例えば、MS/MSやイオンモビリティを応用した微量成分検出や構造異性体の分離は、MSIにも応用できます。また、イオン化法が異なれば得られるイオンイメージも変わります。こうした特長は、マルチモーダルイメージング分析において大変有効です。

課題

  • 装置導入のコスト
    質量分析装置に加えてMSIの前処理装置 (クリオスタットなど)の導入が必要で、他のイメージング手法に比べてイニシャルコストが高くなる傾向にあります。これもMSIの普及におけるハードルの一つとなっています。
  • 分解能と感度のトレードオフ
    1ピクセルのサイズが小さくなるほど、イオン量が減少し感度が低下する傾向にあります。感度を優先した分解能 (典型的に50 μm程度)とした場合、顕微鏡像やSEM像との比較が難しくなることもあります。近年では、質量分析装置の性能向上やデータ処理によって改善する試みもあります。
  • 定量性の限界
    MSIはその性質上、試料そのものが不均一なため、定量的な分析には課題があります。サンプルの凹凸や組織性状の違いが信号強度に影響することもあります。信号強度の解釈や試料間の信号強度比較については十分な注意が必要です。近年では、こうしたゆらぎを考慮した測定プロトコルや解析アプローチも提案されています。

MSIに用いられる主要技術

MALDI

マトリックス支援レーザ脱離イオン化法 (Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization, MALDI)は、現在最もMSIで用いられるイオン化法です。薄切サンプル表面にマトリックスというイオン化を支援する試薬を塗布し、UVレーザを局所的に照射します。マトリックスがレーザを吸収しながら試料の脱離・イオン化を補助することで、分子を壊さずにイオン化することができます。MALDIは飛行時間型 (time-of-flight, TOF)質量分析計、もしくは四重極飛行時間型 (quadrupole time-of-flight, QTOF)質量分析計と組み合わされることが一般的です。

DESI

脱離エレクトロスプレーイオン化法 (Desorption ElectroSpraly Ionization, DESI)は、エレクトロスプレーイオン化法をベースとし、帯電液滴の噴霧により試料成分を抽出・脱離・イオン化する手法です。MALDIとは原理面で異なる点も多く、新たなMSIのモダリティとして急速に普及が進んでいます。QTOFとの組合せが一般的ですが、近年ではトリプル四重極 (Triple-Quadrupole, TQ)質量分析計を組み合わせた高感度のターゲットイメージングも実施されています。

TOF-SIMS

飛行時間型二次イオン質量分析 (TOF-SIMS)は一次イオンを試料表面に照射し、スパッタされた2次イオンをTOFMSへ導入することでマススペクトルを得ることができます。サブミクロンレベルの空間分解能と表面感度の高さが特徴的で、表面分析の分野で使用されることの多い手法です。MALDIやDESIと比べてイオンの断片化 (フラグメンテーション)が生じやすい傾向にありますが、近年ではソフトイオン化を実現するクラスターイオン源も開発されています。
 

LA-ICP

レーザアブレーション誘導結合プラズマ質量分析 (LA-ICP-MS)は、試料表面にレーザ光を照射し、蒸発・微粒子化した試料をICP-MSに導入します。試料はICP-MS内で原子状態まで分解されるため、各元素のイメージが得られます。バイオサイエンスにおいては生体試料中の微量金属元素の解析などに用いられています。

MSIに必要な前処理

薄切

MSIにおいて求められる前処理の一つに「薄切」があります。薄切とは、凍結試料をクリオスタットで5 μm - 20 μm程度にスライスすることを意味します。測定面の位置情報を壊すことなく、均一な薄切試料を作ることが求められるため、高度な技術を要します。

薄切難易度の一例

サンプルによっては脆い・固い・薄いなどの理由で薄切が困難なケースもあります。薄切できなければ測定できないため、この処理はMSIの適用範囲を限定する要因となっています。ただし、薄切に代わるサンプリング手法 (転写など)を用いることで、MSIのアプリケーションも徐々に拡大しています。

マトリックス塗布

MALDIでMSIを実施する場合は、薄切に加え「マトリックス塗布」も必要となります。この処理も、試料に適したマトリックス剤を選定し、薄切したサンプル上に均一に塗布するなど、専門的な知識や経験を必要とします。これらの負担を軽減するマトリックス塗布専用の装置も販売されています。

 

 

MSIの適応範囲拡大へ向けた弊社の取り組み

浜松ホトニクスが開発したPoropareは、堅牢な多孔質構造を持つ質量分析イメージング用前処理サポートアイテムです。本製品の特長を活かした「転写サンプリング」という手法により、従来必要とされていた薄切工程を行わずにMSIを可能にします。これにより、薄切が困難であることを理由にMSIの適用を断念していた試料にも幅広くMSI分析を実施できるようになります。

また、MALDI用Poropareには、プレート表面にイオン化支援膜があらかじめ塗布されており、マトリックスを使用しない「マトリックスフリー」での分析も可能です。これにより前処理が大幅に簡素化され、MSI 実施のハードルを軽減し、また、マトリックス由来のバックグラウンドノイズが発生しないため、特に低分子化合物の分析では S/N 比の向上に寄与します。一方で、マトリックスフリーでは検出が難しい成分の分析では、マトリックスと組み合わせて使用することも可能です。

※Poropare は浜松ホトニクス(株)の登録商標です。

関連情報

質量分析は、さまざまなイオン化法で物質を原子・分子レベルの微細なイオンにし、その質量数と数を測定することにより、物質の同定や定量を行う方法です。一度の分析によって得られる情報量が他の分析手法と比べて多く、プロテオミクスをはじめとするあらゆる分野への応用が考えられます。

浜松ホトニクスでは、イオン検出用デバイスをはじめとする質量分析装置の心臓部を担う各種デバイスを多岐にわたって取り扱っております。

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