農作物成分分析

農作物の成分分析

農作物の品種改良や肥料・農薬の研究開発において、農作物の成分分析は極めて重要な役割を果たしています。農作物の含有成分やその生理機能を解明することは、品種改良や農薬・肥料の開発、施用条件の最適化などの研究開発を促進し、農作物の生産性・品質の向上に貢献することが期待されます。使用される分析手法は分光学的手法や質量分析法など多岐にわたります。分析機器の発展に加え、試料の抽出・分離などの前処理は年々高度化し、微量成分の高感度検出や定量解析を可能にしてきました。

当該分野におけるイメージング分析の必要性

含有成分の空間情報は、抽出・分離などの前処理により一般に失われますが、これを可視化するイメージング分析の重要性が高まっています。農作物を含む植物の研究において、含有成分が「どこに」「どのような状態で」存在するかを把握することは、生理機能および作用メカニズムの解明における重要な基盤となり、品種改良や薬剤・肥料の開発、施用条件の最適化などの研究開発を促進し、農作物の生産性・品質の向上に貢献することが期待されます。特に、質量分析法をベースとした質量分析イメージング(MSイメージング, MSI)は、高感度特性を生かしながら、異なる分子種の局在を一度に得られるラベルフリーのイメージング技術として近年注目されています。

果物のイメージング

イチゴの成分イメージング(MSI像)

農薬成分に着目した分析手法の比較

農薬成分の分析は、農作物の安全性評価や新規農薬開発に不可欠です。ここでは、一例として農薬成分の分析で用いられる代表的な分析手法と質量分析イメージングについてその特徴を比較しました。

クロマトグラフィー質量分析

(LC-MS, GC-MSなど)

液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)およびガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)は、農薬や代謝物など多成分を同時に高感度で分析できる手法です。まず、各種クロマトグラフィーで成分を分離し、その後、分離された化合物をイオン化し、微量検出に優れたタンデム質量分析計などで高感度に検出します。この手法は、残留農薬のモニタリング等に最適ですが、抽出・精製などの前処理に伴い試料を均一化するため、空間情報は得られません。

放射性同位体イメージング

(RIイメージング)

RIイメージングは、放射性同位体元素(RI)で標識した物質を植物に投与し、オートラジオグラフィーやPETIS、RRISなどの装置でRIが放出する放射線を追跡することで、植物体内での化合物の移行経路、分布を解析する手法です。感度のよい検出が可能であり、手法によってはリアルタイムでの変化を観察することもできます。一方で、農薬原体と代謝物との区別が出来ないといった原理的限界や、同位体標識試薬のコスト、放射性物質の使用に伴う安全管理や専用施設の維持等、実用上の制限があります。

質量分析イメージング

(MSイメージング, MSI)

質量分析

質量分析イメージング(MSI)は、測定対象の位置情報と紐づけて質量スペクトルを取得し、成分の局在を可視化する手法です。検出には標識を必要とせず、農薬や代謝物など複数成分を同時に解析できます。一方で、分析領域における前処理の条件ばらつきや夾雑物の分布などに影響を受けることから、定量的な解析には課題がある点に留意が必要です。また、MSIの測定にあたっては、薄切した試料を用意する必要があります。

 

比較項目 LC-MS, GC-MS RIイメージング  MSイメージング  
主な用途 微量・定量分析、定性分析 標識された分子の追跡 複数成分の分布解析
バルク分析/イメージング バルク分析 イメージング イメージング
標識/非標識 非標識 標識 非標識
破壊/非破壊 破壊 非破壊 破壊
メリット 確立したプロトコル  ライブイメージングが可能 標識分子以外も可視化
課題 空間情報の欠落 RI施設の管理 薄切が農作物に適さない

農作物の成分分析におけるMSIの課題

MSIを実施する際には、凍結した試料をあらかじめ数十μm 程度の厚みに薄切する必要があります。水分量の多い農作物や湾曲した葉面などは、薄切時に試料が崩れてしまうことも多く薄切自体が非常に困難です。薄切を前提とするMSIの前処理は、この分野におけるMSIの普及を制限している要因の一つと考えられます。


浜松ホトニクスでは、この課題に注目し、薄切に代わる前処理方法の実現に向けて技術開発を行ってきました。

Poropare 転写プレートとは

Poropare転写プレートは浜松ホトニクスの独自技術により実現した、質量分析イメージング(MSI)用の前処理サポートアイテムです。農作物試料で課題となる薄切に代わり、成分をプレートに写し取る「転写サンプリング」というアプローチを実現します。これまで薄切処理が難しいことで分析を断念していた多くの農作物試料において、MSIの適用を可能とします。

高い吸水性を持つPoropareは、水分を多く含む試料でもにじみを抑えながら成分をプレートに転写することができます。また、堅牢性を活かしたプレート上での圧搾により固い葉のような試料もサンプリングを可能としています。また、試料表面をプレートに押し当てるだけで処理が完了するため、分析者の熟練度に依存せず安定した前処理が可能です。

 

Poropare™ 転写プレート A15551シリーズ

事例1:イチゴの成分イメージング

イチゴ

50 mmサイズのイチゴの割断面を、薄切処理を行うことなくPoropareに押し付けて転写を行いました。転写後のPoropareは追加の処理を行うことなく MSI 分析を実施しました。従来のMSIでは、試料を数十μm単位に薄切りする前処理が不可欠であり、作業者の技術に依存するだけでなく、専用の装置の導入が必要などMSI実施へのハードルを高める要因の一つとなっていました。Poropareは、こうした複雑な前処理を必要とせず、試料の割断面を軽く押し当てるだけで、位置情報を維持した転写サンプリングが可能です。

Poropareにより、イチゴ内部に存在する糖類や有機酸の分布を明瞭に可視化することができました。Poropareを用いることで従来の分析では平均値としてしか捉えられなかった果皮・果肉・維管束といった部位ごとの違いを、より目視に近いスケールで解析できる点が大きな特徴となっています。

測定手順

測定面の露出

1. 測定面の露出

2. 押し付けて転写

3. 測定結果を取得

事例2:葉面の農薬浸透移行性評価

ツツジ

葉は薄く湾曲しているため薄切することができず、MSIを適用して葉面に沿った成分分布を得ることは難しいと言われています。試料をそのまま装置に導入して測定するアプローチにおいても、葉面の凹凸や湾曲が分析結果や装置に影響を与えることが懸念されます。本事例では、こうした課題に対処するため、農薬を局所的に塗布した葉全体をPoropare上で圧搾して転写サンプリングを行いました。転写後のPoropareは追加の処理を行うことなくMSI 分析を実施しました。

Poropareを用いたMSIにより、葉面全体の農薬分布を可視化することができ、農薬の浸透移行性評価に貢献することができました。圧搾による分布の乱れが懸念される条件下でも、Poropareの吸水性により局在を維持した状態で転写できていることが確認されています。これにより、従来の方法では困難だった葉面の成分イメージングを、より簡便かつ安定して実施できる可能性が示されています。

従来手法であるRIイメージングと比較すると、標識不要のためRI由来の制約を受けないことから、分析の実施ハードルが低減されます。また、RIイメージングでは標識由来の信号を検出する原理上、農薬原体と代謝物を区別することが困難ですが、ラベルフリーで複数成分を同時に検出可能な MSI を用いることでこの課題を解決することが可能となります。

測定手順

1. 農薬を滴下して数日待機

2. 葉面を圧搾
*画像はイメージです。

3. 測定結果を取得

測定結果ご提供:日産化学株式会社

質量分析イメージングがもたらす農作物分析の未来

1. 品種改良や栽培研究の現場を支える分析へ

MSIは、農作物に含まれるさまざまな成分を、ラベルを使わずに一度に解析できる手法です。成分ごとに分けて測定する手間を抑えながら、作物内部の情報を幅広く捉えられるため、品種改良や栽培研究に新しい視点をもたらします。Poropareを用いた転写サンプリングは、このMSIのための試料採取をより簡単にし、専門的な前処理への依存を低減します。例えば、遠隔地や栽培現場での試料採取、分析拠点での前処理負担の軽減などを通じて、MSIを研究や評価により活用しやすくします。

2. 農作物内部の変化を見つける手がかりに

MSIを用いると、農薬やその代謝物、有用成分などが、作物の中のどこに存在しているかを調べることができます。これにより、平均的な成分量だけでは見えなかった違いや、複数成分の関係を捉えやすくなり、作物内部で起きている変化への理解が深まります。Poropareは、従来のMSIでは扱いにくかった試料にも対応しやすくし、幅広い農作物に対して、こうした情報をより実用的に取得しやすくします。その結果、品種ごとの特性理解や機能性成分の探索など、農作物の高付加価値化に向けた研究にも役立つことが期待されます。

3. より良い農業判断のために

MSIがもたらす複数成分のイメージング情報は、植物のはたらきに関する基礎研究、農薬などの作用・代謝機構の解析、栽培条件の最適化に新しい判断材料を加えます。作物全体の平均値だけでなく、成分がどこに分布しているかまで分かることで、より具体的な比較や評価が可能になります。Poropareを使うことで、多様な試料を多数扱いやすくなり、比較可能なデータを蓄積しやすくなります。その結果、新たなデータに基づいて、農薬などの環境負荷低減や栽培管理の高度化に役立つ可能性があります。さらに、こうした評価データは、スマート農業における判断基準の一つとして活用され、他の技術との相乗効果を生むことも期待されます。

Poropareの活用のご案内

PoropareはMALDI、及びDESIをイオンソースとする質量分析装置を用いた測定を前提とした製品です。

装置をお持ちの方はもちろん、お持ちでない方でも受託分析サービスでご活用いただけます。それぞれの詳細は下記をご覧ください。

ご自身で使用したい方

分析を依頼したい方

※Poropare は浜松ホトニクス(株)の登録商標です。

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