多光子顕微鏡 多光子顕微鏡

多光子顕微鏡

多光子顕微鏡とは

多光子顕微鏡とは、共焦点顕微鏡に代表されるレーザ走査型蛍光顕微鏡の一種で、長波長の超短パルスレーザと多光子励起という現象を利用してサンプルの深部を観察するための観察手法です。

多光子顕微鏡の主な特長は以下の通りです。

  • 励起光が長波長のため、深部の観察が可能。
  • 焦点近傍の蛍光色素分子のみが励起されるため、褪色が生じにくい。
  • 焦点面のみで蛍光が生じるため、ピンホールを使用する必要がなく、サンプル内で散乱や屈折した蛍光も効率よく検出できる。
  • ブルーシフトの性質により、複数の波長を同時に観察することが可能。

二光子顕微鏡の撮像例

マウスの脳神経細胞の2光子顕微鏡画像

ご提供:浜松医科大学 医学分光応用研究室(現バイオフォトニクスイノベーション寄付研究室)

共焦点顕微鏡の光学系模式図

図1 : 共焦点顕微鏡の光学系模式図

多光子顕微鏡の光学系模式図

図2 : 多光子顕微鏡の光学系模式図

多光子励起とは

多光子励起とは、蛍光分子が複数の光子を同時に吸収することで励起される現象のことです。ここでは2つの光子を同時に吸収する2光子励起を例に説明します。

通常500 nmの光で励起される蛍光分子がある場合、500 nmの波長の1光子を吸収し励起状態になりますが、2光子励起の場合は500 nmの2倍の波長である1000 nmの波長の2光子を吸収し励起状態になります。光子1つのエネルギー強度は波長に反比例するため、1000 nmの1光子のエネルギーを1とした場合、500 nmの1光子のエネルギーは2となり、1000 nmの光子を2つ吸収することで蛍光分子が励起されるエネルギーと等しくなります。

多光子励起現象を起こすためには、光子の密度(強度)を瞬間的に極度に高くする必要があるため、一般的にフェムト秒レベルの超短パルスレーザが使用されます。多光子励起は非常に生じにくい現象のため、基本的に対物レンズにより光子が集光され密度が高くなる焦点近傍でのみ発生します。

2光子励起の概念図

図3 : 2光子励起の概念図

ブルーシフトとは

ブルーシフトとは、例えば2光子励起を行う際の励起光の吸収極大波長が、理想的な波長よりも短波長側にずれる性質のことを指します。

例えば1000 nmの励起光で2光子励起を行う場合、500 nmで励起されることが理想ですが、実際にはブルーシフトにより500 nm以下の波長で励起されることがあります。この性質により、1つの波長の励起光で同時に複数の蛍光色素を励起することが可能になります。

一般的な蛍光顕微鏡では、複数の蛍光分子をそれぞれ励起するために複数の波長の光源を用いたり、複数の励起フィルタを用いて励起したりする必要がありますが、このブルーシフトの性質を応用することで、多光子顕微鏡では1つのレーザで複数の波長を同時に観察することができます。

撮像例

マウス脳深部の観察

浜松ホトニクス 光電子増倍管モジュール H15460-40相当品を使用

ご提供:理化学研究所 脳神経科学研究センター 村山 正宜 様

病態モデルマウスの糸球体観察(HIGA) 

野生型のマウス(画面左)とIGA腎症のモデルのHIGAマウス(画面右)それぞれから摘出した腎臓を2光子顕微鏡を用いて3次元蛍光観察しました。青:血管内皮、緑:基底膜、赤:ポドサイト2次突起

IGA腎症のモデルのHIGAマウスでは血管内皮とポドサイト2次突起の間にある基底膜が球状の玉のように膨らんでいるのが確認できます。一方、野生型のマウスでは基底膜の膨らみは確認できません。

ご提供:浜松医科大学 微生物学・免疫学講座 紺野 在 助教

SLM 2光子顕微鏡によるThy1-YFPマウスの高解像度観察

Thy1-YFPマウスの脳試料の断面をNA1.1の対物レンズで2光子観察しました。

光学系内に存在する非点収差やコマ収差などをSLMによって補正することで、細胞体を高い解像度で観察することができています。

ご提供:浜松医科大学 微生物学・免疫学講座 紺野 在 助教

SLM 2光子顕微鏡によるThy1-YFPマウスの脳神経線維3D画像

Thy1-YFPマウスの脳試料の断面をNA1.1の対物レンズで2光子観察し、3D再構築した画像です。

光学系内に存在する非点収差やコマ収差などをSLMによって補正することで、細胞体を高い解像度で観察することができており、脳神経線維の突起などが鮮明に見えています。

ご提供:浜松医科大学 微生物学・免疫学講座 紺野 在 助教

SLMを用いた多点走査

Hela細胞をSLM搭載レーザ走査型2光子顕微鏡で蛍光観察しました。

左側はSLMで4点同時に励起光を走査しているのに対し、右側は従来の1点での走査をしています。4点同時励起により4倍高速な撮像が可能になります。また、SLMによって多点間の強度を揃えることで4点走査でも1点走査と遜色のない画像が得られます。

検出器にはマルチアノードPMT(H12310-40)を使用しています。

SLMを用いた収差補正

エポキシ樹脂に内包した3 μmビーズをNA1.0の水浸対物レンズを用いて観察しました。XY方向は200 μm × 200 μmの範囲をガルバノスキャナを用いてスキャンし、Z方向は対物レンズを1.5 μmずつ動かしながら1000枚取得しました。SLMによる補正がない場合では、水とエポキシ樹脂の屈折率差によって球面収差が発生します。これにより、深部では集光形状が縦に伸びてしまうためエネルギー密度が低下し、深部のビーズを観察することが困難になります。一方、SLMによる補正を適用すると励起光の集光形状が改善し、深部でも高いエネルギー密度を保つことができます。

ピックアップ製品:光電子増倍管モジュール H15460-40 / H15461-40

H15460-40は、GaAsP光電面を有する光電子増倍管を内蔵した光電子増倍管モジュールです。有効面が14 mm×14 mmと広く、多光子励起顕微鏡など非常に微弱な光を検出する用途に最適な検出器となっています。

多光子顕微鏡は深部のイメージングが可能な顕微鏡手法ですが、深部になればなるほど内部構造による散乱などの影響を受けるため、受光面が小さい検出器では捉えられる蛍光量が減少します。H15460-40は一般的な光電子増倍管と比較して非常に広い受光面を持っているため、一般的な光電子増倍管では捉えきれない範囲の蛍光を捉えることができ、高S/Nな画像の取得に貢献します。

光電子増倍管モジュール H15460-40 / H15461-40

ピックアップ製品:LCOS-SLM

LCOS-SLM (Liquid Crystal on Silicon - Spatial Light Modulator : 空間光位相変調器) とは、電気的にレーザ光の位相を自由に制御することができるデバイスです。画素電極が2次元状に配置されたCMOSチップと、ガラス基板に蒸着された透明電極の間に液晶が挟まれた構造により、レーザ光の位相を2次元で制御することができます。PCから出力されるデジタル画像は専用の駆動回路によりアナログ信号に変換され、CMOSチップ上の画素電極に電圧を印加します。この電圧によって液晶分子が傾き、液晶の屈折率が変化することにより、各画素に照射された光の位相が制御されます。光の位相を高精度に制御することができるLCOS-SLMは、光渦の発生等などの研究用途から、顕微観察における収差補正や多点分岐による微小コードマーキングなどの産業用途に至るまで、多岐にわたって活用されています。

2光子顕微鏡用途においては以下のような用途でLCOS-SLMの応用が研究されています。

  • 生体試料の形状による収差の補正
  • 励起光の多点分岐による多点同時スキャン
  • 励起光スポットの制御による解像度の向上

研究紹介 : SLMを用いた高機能多光子励起顕微鏡

空間光変調器(SLM)を用いて光の波面を高精度に制御すると、「複数の集光点を形成して、多点同時観察を可能にする」、「解像度低下要因である光学的歪み(収差)を補正する」など、光学システムの性能や機能を向上させるように光を操作することができます。当社では、このSLMを多光子励起蛍光顕微鏡システムに組み込み、励起レーザ光の波面を制御することで、生体の表面から深部まで高精度かつ簡便に観察することを目指しています。現在は、2光子励起蛍光顕微鏡で高精度・高機能化を目的とした研究開発を行っています。また、浜松医科大学と共同で、この高精度・高機能顕微鏡システムを用いた基礎・応用研究に取り組んでいます。今後、さまざまな大学と連携しながら、医学・生物学の研究への貢献を目指しています。

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