光情報処理・計測

光波面制御は光の波面(位相の空間分布)を自由に操る技術のことです。この技術は、例えば精密なレーザ加工やホログラフィック3次元加工、補償光学を利用した眼底イメージング、分子モータのような微小物体のマニピュレーションや生体試料内部の3次元超解像顕微計測、パルス波形制御などの実現に不可欠の要素となります。
当社は、より高度な制御を行うために、高速・高精度なセンシング技術を研究し、両技術の融合により、新しい用途や知見を得ると考えています。その具体的な例として、独自技術である空間光位相変調器(Liquid crystal on silicon - spatial light modulator; LCOS-SLM)とインテリジェントビジョンセンサ(Intelligent vision sensor; IVS)をキーデバイスに、高度光波面制御技術の産業応用や医療機器応用などへの基礎研究を行っています。

補償光学とは、光学機器の内部などで発生した収差を波面センサで計測し、それを補正することで得られる画質を直接的に改善にする技術のことです。この補正には光路長を直接変えるデフォーマブルミラーなどの利用がありますが、当社はより高精細に補正するために、局所的に光の位相をシフトさせるLCOS-SLMを用いた技術を研究しています。現在の主要な補償光学アプリケーションは、眼底イメージングの分野にあり、人間の網膜の高解像度画像を得ることができます。

光トルクレンチ

光トルクレンチ

光トルクレンチとは、「光渦」とよばれる特殊な性質を持った光の力を利用して、物に回転力を与える技術です。光渦を作り出すためには、高度な光技術が必要とされますが、当社では高水準の光渦生成技術を確立してきました。

当社の高精度光トルクレンチにより、単一の分子の動きを制御する、あるいは分子が生み出す微小な力を精密に測定することも可能となります。

当社は、光学系の点光源に対する応答特性を示す点像分布関数(Point spread function; PSF)の、理論計算およびLCOS-SLMによる動的な制御に注目して研究しています。高精度な光技術と位相制御の双方が必要になりますが、当社は技術開発を進めて顕微鏡に応用することで、これまでの顕微鏡では得られなかった多点・収差補正・多焦点・被写界深度拡張などの個別あるいは同時実現に成功しています。さらなる顕微観察技術の高機能化に寄与すべく、超解像顕微鏡や非線形顕微鏡への応用も進めています。

 

空間光変調器(SLM)を用いて光の波面を高精度に制御すると、「複数の集光点を形成して、多点同時観察を可能にする」、「解像度低下要因である光学的歪み(収差)を補正する」など、光学システムの性能や機能を向上させるように光を操作することができます。当社では、このSLMを多光子励起蛍光顕微鏡システムに組み込み、励起レーザ光の波面を制御することで、生体の表面から深部まで高精度かつ簡便に観察することを目指しています。現在は、2光子励起蛍光顕微鏡で高精度・高機能化を目的とした研究開発を行っています。また、浜松医科大学と共同で、この高精度・高機能顕微鏡システムを用いた基礎・応用研究に取り組んでいます。今後、さまざまな大学と連携しながら、医学・生物学の研究への貢献を目指しています。

超短パルスレーザ波形制御技術

超短パルスレーザ波形制御技術

フェムト秒・ピコ秒オーダーの速さの超短パルスレーザは、対象に与える熱ダメージが小さくできるため、加工や細胞の高感度計測などに応用されております。しかし、これらの加工や計測は非線形過程を経るため、その効果はパルス形状に大きく依存します。そのため、パルス波形の形状やパルスの間隔を自由に制御できる技術が求められています。

当社は、パルス光に含まれるスペクトル位相・強度を高精度に変調する手法を開発し、波形制御自由度の高い新しい技術の創出を目指し、波形制御方法・計測方法の研究を進めています。

LCOS-SLMで回折的に複数のビームに分割することで、並列同時加工を実現し、スループット向上を達成できます。当社は、LCOS-SLMでこのような性能を得るために必要となる計算機ホログラム技術と光学設計技術を研究し、より高速・高精度・高付加価値な加工技術の創成を目指しています。

これらにより、当社独自技術であるステルスダイシング™プロセスの高度化や、従来のインクジェット式印字システムまたは高速レーザ走査システムを使用する代わりに、ガラスやアルミニウム缶への直接的かつシングルショットのレーザマーキングを実現できます。

テラヘルツ波は、光と電波の中間に位置する波長領域の電磁波です。光と電波の両方の性質を兼ね備え、多くの可能性を秘めています。将来期待される6G通信もテラヘルツ波が使われます。当社は、このテラヘルツ波領域を開拓すべく、テラヘルツ波用Siプリズム波長板などのデバイスや、小型で使いやすいテラヘルツ波減衰全反射(THz-ATR)分光分析装置を開発してきました。今後のテラヘルツ波利用の拡大を見据え、新たなテラヘルツデバイスの開発や、テラヘルツ分光やテラヘルツイメージング技術による、薬剤・食品・材料分析などへの応用研究に取り組んでいます。

表面増強ラマン散乱測定方法

活性な銀ナノ基質をその場で作製する表面増強ラマン散乱測定方法

ラマン散乱分光はスペクトルに現れる化合物の構造情報から分析対象物の定性・定量・組成分析を迅速に行う有力な手段です。その一方でラマン信号は微弱であり、元来微量分析には不向きですが、金属ナノ構造へ測定対象物が吸着することで大幅な信号増強が生じ、この現象は表面増強ラマン散乱(SERS)と呼ばれます。

当社では、SERSをより使いやすく、かつ高感度な手法とするべく、化学反応を利用して測定時に迅速に銀ナノ構造を作成し、測定に利用する方法を開発しました。現在バイオ分野をはじめとして本手法の有効な用途の探索を行っています。

ディープラーニングを利用する分光スペクトル解析技術

ディープラーニングを利用する分光スペクトル解析技術

一見複雑そうに見える分光スペクトルは、被測定物のさまざまな分子情報が反映された結果です。この複雑なスペクトルから所望の情報を取り出すために、特徴量抽出や回帰分析といったさまざまな解析が行われています。当社は、ディープラーニングを用いた新たな解析技術を確立し、従来法より高精度なスペクトル分類、真贋判定、混合比定量など多くの応用を目指した研究を行っています。

数keV以下のエネルギーの軟X線は原子番号の小さな物質(軽元素)に対し吸収が大きく、生物試料や軽元素材料の観察に有効です。当社が開発した高分解能のX線光学素子(斜入射反射鏡)は、他の素子に比べてX線の利用効率が高く、また、異なるエネルギーのX線を同じように結像できることが特長です。この斜入射反射鏡と電子衝撃型X線源を組み合わせることで、従来にない実験室規模の使いやすさを持った高分解能の3次元構造観察装置を開発しています。