マイクロ流体デバイスで培養した神経細胞の3次元イメージング

公開日:2024年12月20日

東北大学 電気通信研究所 計算システム基盤研究部門 ナノ集積デバイス・システム研究室 様は、脳型計算などの非ノイマン型計算に着目し、それらのハードウェア基盤技術に関する研究を行っています。その中で、山本 英明 様の研究グループであるナノ集積神経情報システム研究分野では、半導体微細加工・神経細胞培養・数理モデリングなどを統合し、生物の脳の機能をボトムアップに解析するための新しいin vitro系の開発を行っています。このin vitro系を製作する過程では神経細胞を培養する必要がありますが、培養した神経細胞が凝集し立体構造を構築した際に、これを3次元にイメージングする目的で弊社のMAICO MEMS共焦点ユニットを導入いただいております。

同研究室の准教授である山本 英明 様、MAICO MEMS共焦点ユニットを使用した神経細胞の観察や解析を担当している室田 白馬 様に、MAICO MEMS共焦点ユニットを導入した経緯やその使用感、今後の研究の展望などについてインタビューを行いました。

 

研究について

-研究内容について教えてください。

 

現在の主な研究内容は、生物の脳を構成する複雑な神経回路網のモデルとして使える新たなin vitro系を開発するというものです。例えば心臓やがんなどの研究では、培養細胞を用いて生体機能や病態をある程度再現することが可能ですが、脳のような極めて複雑な組織になると現状は良いモデル系が存在しておらず、そこに問題意識を感じています。例えば、ラットの大脳皮質の神経細胞を平坦なシャーレ上で培養すると、生体中とは違う活動パターンを示します。そのため、これをもっと生体に近づけたいというのが研究のモチベーションの1つです。オルガノイドなどの新しい細胞培養技術も急速に進められていますが、私たちはエレクトロニクス系のバックグラウンドも持っているため、そこで培った半導体製造の技術などを使い、脳で見られるような配線構造の一部を再現したin vitro系を開発したいと思っています。

 

具体的には、所内の半導体クリーンルーム(図1)にある装置を用いて、神経細胞が接着したり、神経突起を伸ばしたりするときの物理的なガイドになるようなマイクロ流体デバイスを作製しています(図2)。実際に作製したマイクロ流体デバイスで神経細胞を培養すると、1つ1つのセル(貫通孔)の中で神経細胞が密に結合したのち、セル間を結ぶマイクロチャンネルを介して神経突起を伸ばし回路網を形成します。このように密に結合している細胞集団とその集団同士が弱く相互作用しているというのが実際の大脳皮質の神経回路の特徴と言われており、このデバイスを用いて神経細胞を培養することで、一部ではありますが、脳で見られるようなネットワーク構造を再現するという実験を行っています。

山本 英明 様

山本 英明 様

マイクロ流体デバイスなどを製作するクリーンルーム

図1:マイクロ流体デバイスなどを製作するクリーンルーム

マイクロ流体デバイスで培養された神経細胞

図2:マイクロ流体デバイスで培養された神経細胞

神経細胞のイメージングにおける課題

室田 白馬 様

室田 白馬 様

-神経細胞のイメージングにはどのような課題がありましたか。

 

培養した神経細胞を観察する際は、基本的に落射照明の蛍光顕微鏡にsCMOSカメラを取り付けて観察をしているのですが、神経細胞の培養を何日も続けていると、細胞の密度が高い部分は細胞が凝集して立体構造を形成します。そうすると、通常の落射照明の蛍光顕微鏡とsCMOSカメラの組み合わせではその立体構造をきれいに観察することができませんでした。そのため、当研究室ではできるだけ細胞が凝集しないような培養方法も検討してきましたが、凝集した状態でもうまく系が機能するようであれば、これも残したまま使いたいと思っていました。そうなったときに、この立体構造を観察するために共焦点顕微鏡を使用する必要が出てきたのですが、当時研究室内に共焦点顕微鏡がなく、また施設内の共通設備などにも共焦点顕微鏡がない状態でした。他のキャンパスに行けば使用できるものはあったのですが、培養したサンプルを運搬するのも手間がかかるため、できれば自分の研究施設内で使用できる共焦点顕微鏡が欲しいと思っていました。しかし、一般的に共焦点顕微鏡は高額なため、ある程度まとまった予算を獲得しないと導入するのが難しいというジレンマを抱えていました。

MAICO MEMS共焦点ユニット 導入の決め手

-MAICO MEMS共焦点ユニットの導入に至った理由や決め手があれば教えてください。

 

自分の研究室ですぐに使える共焦点顕微鏡がないという課題を感じていたときに、ちょうど参加した展示会で、浜松ホトニクスが既存の顕微鏡に取り付けるだけで共焦点顕微鏡が構築できるユニットを発売したという情報を目にして興味を持ちました。その翌年に製品のデモをさせていただきましたが、感度や画質も申し分なく、すぐに導入しますという話になりました。

 

導入の一番の決め手は、やはりリーズナブルな価格でした。私の研究室では最初に488 nmの1波長の構成で導入しましたが、500万円を下回る非常にリーズナブルな価格で導入できたため予算の面で非常に助かったことを覚えています。また、後から必要な波長を追加できるサブユニット構造を持っていることもありがたく、現在は638 nmのユニットを追加した2波長の構成で運用しています。今後、研究の進捗に応じて405 nmや561 nmのユニットの追加も検討しています。

MAICOを用いたイメージングシステム

MAICOを用いたイメージングシステム

 

通常の蛍光撮影用に弊社のORCA-Fusion BTもご使用いただいています。

MAICO MEMS共焦点ユニットの使い勝手

山本 英明 様 室田 白馬 様

-MAICO MEMS共焦点ユニットの使い勝手に関してはどのように感じておられますか。

 

私たちは他のメーカーの共焦点顕微鏡をあまり使ったことがないのでそれらとの比較はできませんが、本体のスイッチを入れて15分程度ですぐに観察が始められる点や、MAICOの制御に使うHCImage ソフトウエアが直感的で使いやすい点は魅力的だと感じています。また、浜松ホトニクスが提供している分解能シミュレーターを使うことで、自分の使っている対物レンズでどのくらいの分解能で撮影できるかをあらかじめ簡単に確認できる点もありがたいと思っています。

 

現在、実際にMAICOを使用して凝集した神経細胞の3次元観察を行っていますが、立体構造が非常にきれいに見えており満足しています。加えて、通常の2次元培養された神経細胞についても、カメラで撮影するよりも高い分解能で観察ができています。また、現在は神経細胞のカルシウムイメージングはカメラで行っていますが、MAICOはフレームレートが速いため、将来的にはこれを用いて凝集体のカルシウムイメージングを行うことも検討しています。

撮像例

 凝集したラット大脳皮質神経細胞の3次元画像(NeuOとGCaMP6sの蛍光を観察)

 

データ提供:東北大学 電気通信研究所 ナノ・スピン実験施設 ナノ集積デバイス・システム研究室 山本 英明 様

培養ラット大脳皮質神経細胞の軸索や樹状突起の様子

培養ラット大脳皮質神経細胞の軸索や樹状突起の様子

マイクロ流体デバイスの外側で撮影した神経細胞をMaxプロジェクション処理した画像です。

 

データ提供:東北大学 電気通信研究所 ナノ・スピン実験施設 ナノ集積デバイス・システム研究室 山本 英明 様

研究展望

-今後の研究展望を教えてください。

 

1点目はマイクロ流体デバイスのセル数を増やし、より複雑な系を構築することを目指しています。以前は2 × 2のセル内で神経細胞を培養していましたが、現在は4 × 4のセルを持つマイクロ流体デバイスを製作し、そこで神経細胞の培養を行っています。セルの数を増やすことで神経細胞の集団を増やせば、より複雑な神経回路網を再現できるのではないかと考えています。さらに将来的にはマイクロチャンネルがXY方向だけでなくZ方向にも並んだ3次元のマイクロ流体デバイスを製作する可能性もあります。現状のデバイス製作プロセスでどのように3次元構造を作るかが難しいところではありますが、共焦点顕微鏡で3次元の観察はできるようになっているため、そういったことにも挑戦してみたいと考えています。

 

2点目は神経細胞の凝集体のカルシウムイメージングです。今まではカバーガラスやマイクロ流体デバイス内に2次元的に培養した神経細胞のカルシウムイメージングをメインに行っていましたが、MAICOを導入したことで凝集した神経細胞のカルシウムイメージングを行える可能性が出てきました。これがうまくいけば今後はより積極的に凝集体が構築されるように培養を行うなど、研究の発展が見込めます。

山本 英明 様

「脳神経マルチセルラバイオ計算の理解とバイオ超越への挑戦」について

-新たに発足された「脳神経マルチセルラバイオ計算の理解とバイオ超越への挑戦」というプロジェクトについて教えてください。

 

本プロジェクトは、科研費の「学術変革領域研究(A)」の助成により2024年4月に発足したプロジェクトです。領域名にあるバイオ超越という用語には、「バイオに倣って設計されたシステムが、従来の計算機では到達困難な学習効率・エネルギー効率・環境適応性で特定の問題が解けるようになること」という意味を込めています。先ほどもご説明したように、私たちの脳は神経細胞が互いに接続して回路を構成して形成されています。コンピュータやスマートフォンで使われている集積回路の素子であるトランジスタなどと比べて、神経細胞は素子としては不安定ですが、脳は自律適応的に、そして高いエネルギー効率で高度な情報処理を実現します。この特性は単一の細胞では現れず、その単純な多数倍としても説明できません。多種多様な神経細胞が巧妙に配置・配線されて、マルチセルラ(多細胞)ネットワークを構成することにより、脳的機能ははじめて創発されます。本プロジェクトでは、このようなバイオ素子を物質的基盤とする脳の情報処理アーキテクチャを、in vivoとin vitroの実験で解析した上で数理モデルとして記述し、システム応用へと結びつけることを目指しています。このような研究により、脳神経系の基礎理解はもちろん、計算効率が高く、頑健性・柔軟性を持つ革新的なコンピューティング技術の創成へと結びつくことが期待されています。

 

これを実現するためのチームとして、本プロジェクトには情報科学、生体工学、生物学、エレクトロニクスなど、さまざまな専門分野の研究者が集まっています。そして、生物実験のデータを記述する情報処理モデルと学習則の定式化(マルチセルラ数理モデル)、ハードウェアへの機能実装と実機制御応用(マルチセルラハードウェア)、培養細胞を用いた数理モデル・学習則の検証と生体機能の人工再構成(マルチセルラウェットウェア)の3つのドメインを設置し、これらのドメインにおけるバイオ超越に挑戦しています。

脳神経マルチセルラバイオ計算の理解とバイオ超越への挑戦

研究者プロフィール

山本 英明 様

山本 英明
東北大学 電気通信研究所 准教授
東北大学 材料科学高等研究所 准教授(兼任)
東北大学 工学部 電気情報物理工学科 准教授(兼任)
東北大学大学院 工学研究科 電子工学専攻 准教授(兼任)

2009年3月     早稲田大学大学院 先進理工学研究科 ナノ理工学専攻 修了
2009年4月     早稲田大学 理工学術院 日本学術振興会特別研究員(PD)
2010年4月     東京農工大学 工学部生命工学科 日本学術振興会特別研究員(SPD)
2013年4月     早稲田大学 高等研究所 助教
2014年4月     東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教
2018年5月     東北大学 材料科学高等研究所 助教
2020年1月     現職

室田 白馬 様

室田 白馬
東北大学 電気通信研究所 ナノ・バイオ融合分子デバイス研究室

2022年3月     東北大学 工学部 電気情報物理工学科 卒業
2024年3月     東北大学大学院 工学研究科 電子工学専攻 博士課程前期2年の課程 修了
2024年4月     東北大学大学院 工学研究科 電子工学専攻 博士課程後期3年の課程 入学

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